第13話 シールド戦隊の日常3



「ああー、こんな仕事より可愛い女の子と遊びてぇ」




 ああまた始まった。達彦の愚痴。そもそも横に女の子いるのに失礼な愚痴よねー。ちょっとからかってやろうか。




「可愛い女の子ならいるよ」




 どうだ。私の悩殺ポーズ。参ったか。




「あー、はいはい」




 ガクッ。なんだよ。初対面の頃は星那様―って追いかけてきたくせに。立場逆転かよ。立場逆転。ってそれじゃあ私が追いかけてるみたいじゃんか。違う違う全然違う。二百%ない。


 あっ、挨拶遅れました。星那って言います。シールドイエローやらせてもらってます。私が戦隊入った理由は簡単。世の中の皆が鬱々としているような気がしたから。怪人のせいで。私は皆の笑っている顔が好き。だから私にやれることで、皆を笑顔に出来るならそれでいいかなって。普通のOLだったんだけど、今は戦隊やらせてもらってます。


 達彦が雑に仕事をする分、私がフォローして仕事する。ってかちゃんとやれ達彦。




「ちょっとだけいい」




 急に達彦が話しかけてきた。最初何のことだかわからなかったけど、達彦の向いている方を見ると、なるほど音楽が聞こえてくる。そう言えば昔、歌手やってたんだっけ。しかしそうは言っても、




「任務中なんだけど」




 今は仕事の最中、簡単に許すわけにはいかない。




「いや、ちょっと気になってさ。なんか怪人の気配がする気がするんだ。ってか休憩も必要っしょ」




 まあ実際、達彦の場合は休憩してリフレッシュした方が仕事に集中出来るかもしれない。そう思った。




「はぁ、いいわよ。私、トイレ行ってくるから、ちょっとだけね」




 確かトイレにも鏡はあったはずだ。




「ありがとうございます、神様、女神様。今度デートしてあげるからー」




 達彦はそう言って走って行く。




「そんなんいるかー」




 私は大声で叫んだが届いたかどうか。まあ、とにもかくにも私はトイレに向かった。


 トイレまでの道中も鏡やガラスをチェックしながら進んだが、特に怪しいものはなかった。このショッピングモール一つにどれだけの鏡があるんだと悪態をつきたくなる。ただ、それよりも唖然とする光景を目にしてしまう。


 女子トイレだ。


 長蛇の列が出来ていた。人の集まる場所だとこういう光景はよく目にする。だから女子はちょっと早めにトイレに向かうのだ。隣の男子トイレは人の出入りこそあれほとんど並んでいなかった。男と女でこんなに差が出るものかと思う。もちろん、女の場合はどうしても便器の数が少なくなるので物理的にもしょうがないのだろうが、それにしてもである。この列に並ぶと男の人は良いなと時々思うのだ。


 調査だ、と言って割り込むのはトイレに行きたい人達にとって苦痛になるだろうから素直に並ぶ。経験値的にこの長蛇の列は十五分かかりそうだ。なんか並ぶと私までトイレに行きたくなってきた。




「ねぇ、ママまだ」




 五分くらい経った頃に真後ろに並んでいる親子の子どもの方がもじもじしながらそう言った。




「うん。まだかな。我慢出来る」




 お母さんが優しく確認する。




「・・・・・・うん」




 女の子は不安そうに頷いた。子どもだからまだこういう長蛇の列に慣れていないのだろう。かわいそうに。




「どうぞ」




 私はその親子を前に行かせることにした。私はまだ我慢出来る。




「ありがとうございます」




 お母さんが申し訳なさそうにして前に行った。




「ねぇー、まだー」




 三分後。また子どもが聞いている。かなりやばそうだ。




「もう、難しい」




 お母さんが確認する。




「うん」




 子どもは今にも漏らしそうだ。




「じゃあ、あっちのトイレ入ろうか」




 あっちとは車椅子用の共用トイレのことだ。確かにその方が良いかもしれない。




「うん」




 初めて子どもの元気な声を聞いた気がする。


 ただ、話はそう簡単には終わらなかった。


 親子が列を外れて共用トイレに向かった瞬間、車椅子の人が来て介助者と一緒に中に入っていったのだ。運が悪いとはまさにこのことである。


 その姿を見て数秒後、子どもの下の床が濡れてしまった。


 泣き始める子ども。あたふたする母親。床に広がるはアンモニアの池。ちょっとした地獄絵図だ。と、その時である。やつが現れたのは。




「ハルハルハルハルハルー」




 ハルバード怪人である。下級怪人が一人だ。




(こんな時に、なんと間の悪い)


「シールドイエロー、変身」




 私は心の中で悪態をつきながら変身した。




「扇子の盾、装着」




 私はイライラもあって一気に決めることにする。両手に扇子を持った。




「この世を憂う、全ての人達。私が笑顔に変えてみせる。行っくよー」




 扇子を開いて横に構える。




「クロス・ザ・ラフィング」




 二つの扇子を同時に投げ、挟み撃ちにする。二つの扇子は笑うようにクロスしながら進むので、簡単には避けられない。




「バード」




 怪人が矛になった。私はすぐに矛を壊す。


 すぐに倒したし、報告は後で良いだろう。そう思う。それより




(動いたらトイレ行きたくなってきた)




 一連の騒動の間に、親子は共用トイレに行く事に成功したらしい。まあ、着替えたりしただけだと思うけど。私もその後お邪魔することにした。




「下級怪人が二人出てきた」




 私がトイレに入った後である。その連絡が来たのは。




「ごめん。こっちにも出てきた。俺達は向かえない」




 達彦の声だ。俺達と言っている。これはヘルプのサインだ。すっきりした後だったのですぐに向かう。




「こちらは下級怪人二人だ、俺一人でもなんとかなる」




 距離は近いのですぐに辿り着いた。




「OK,達彦、そっちは」




 辿り着いて唖然とする。このゴツゴツした姿は。おそらく・・・・・・。




「ってちょっと、これ上級怪人じゃない」




 中級怪人というのもいるが、比較的スリムなので間違いないだろう。無線がオフのままつい声が出てしまう。




「今星那も来たけど二人じゃまずいかも。たぶんこいつ上級怪人」


「了解。帯人は人々の避難を。私はすぐに向かう。守人はなんとか一人でお願い」


「「「「ラジャ」」」」




 皆が来るまで大変だぞ、こりゃ。




「シールドヌンチャク」




 達彦が武器を出す。




「我が願うは喜びの嵐。シールドグリーン、いざ参る」




 続けて決め台詞も言った。




「お前は言ったのか」




 達彦が確認してくる。




「ええ、来る途中にね」




 状況的に詳しくは話せない。




「OK。今なったばかりの新人だから、今のうちにダメージ与えちゃおう」




 達彦が言っているのは成り立ての上級怪人だ、ということである。成り立ての場合、力が不安定なので、通常の上級怪人よりは弱いとされている。




「わかった。一の矢、任せたよ」


「任せろ。ストームダッシュ」




 ストームダッシュはヌンチャクを振り回しながら突撃する攻撃だ。戦隊一のスピードを誇るグリーンの得意技である。私もすぐに後に続く。




 バシンッ




 荒れ狂うヌンチャクの嵐を前に対応出来なかった上級怪人が直撃を食らった。




「まだまだだよっ」




 そしてすぐに私が追撃する。




「笑う門には福来たるー」




 二つの扇子を使った連続攻撃である。最後の一撃が重い一撃になっている。




 バシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシンッ




 これもヒットする。




「画竜点睛を欠く」




 達彦が更に追い打ちをしてくれる。この技はヌンチャクを超速で回してエネルギーを溜めた後一点突破の突きに変わる技だ。




 バッシーン




 クリーンヒットした。




「ウオーーー」




 しかしというかやはりそれでも決定打にはならないようだ。




「オマエサエイナケレバ、オマエサエイナケレバ、オマエサエイナケレバ」




 そしてこちらに突進してくる。急いで逃げようとするが、逃げ込んだ先が悪かった。袋小路である。




「ええーい。やけだ」




 逃げるためには前進あるのみ。前回し蹴りを繰り出した。




「ジャマだー」




 しかしそれを掴まれて振り回される。




「うわーわー」




 横に叩きつけられて、下に叩きつけられて、そして投げ飛ばされた。




 グフッ。ダメージが大きくて動けない。




 達彦も捕まったらしい。地面から怪人が達彦の首を持って締め上げているのが見える。やばいっ。達彦が殺される。だが自分は動けない。絶体絶命のピンチだった。


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