第6話 岬の家

 東京に引っ越す少し前、私はわたしの祖父と二人で暮らしていた。回覧板もご近所さんも無い、山奥の古びた家だ。 

「おはようコトコ」

 祖父はいつも、おはようの挨拶で一日を始めた。

「おはよう、おじいちゃん」

「夏休みの宿題できたかい」

「一日じゃ無理だよ。日記なら書いた」

「ああそう」

 祖父はつるりと白い皮膚をしていて、老人らしき皺や白髪とは無縁だ。しかし、日に日にその肌は青くなる。その髪は海に浮かぶ藻の如く緑色に近づいている。

「さ、朝ごはんにしようか」

 私は、祖父が人魚ではないかと睨んでいる。


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