第3話 波濤 

 この世の果てはなんだろう。

「Q.それはとても恐ろしい?」

「A.ううん。とっても簡単。笑ってしまうくらい」

 ご覧、と指が船の外の青いうねりを指す。

「この世の果て」

「海じゃん」

 笑う。指が引っ込んで、隣の君が立ち上がる。

「波よ」

 船が、少しだけ揺れた。

「何処までも終わりがないなら、つまりはそれがお仕舞ってことでしょう?」

 船が揺れている。青い水が白く泡立って、引いては寄せてを繰り返す。

「ねえ危ないよ、座ってくれないと__アッ」

 大きなうねりが船を突き上げて、君の白い足が放り出される。僕は必死で手を伸ばす。

「終わりなら終わりって言ってくれなきゃ_」

 冷たい。

「お仕舞ならお仕舞と言ってくれなきゃ_」

 冷たい。

「こんなもんが最期なんて寂しいだろ!」

 ドッと海が飛沫を上げて、僕は船の上にひっくり返る。水に濡れた木の板は、しょっぱくて嫌な匂いがした。


 僕は昔、人魚を見た。話して、友達になった。命が始まるところから来た彼女は、命が終わるところへ帰っていったのだ。

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