第2話 再開
神様の不手際とやらで、20余年の生涯を絶つ。長いようで短い、でもやっぱり長過ぎるような毎日を、私はひたすら退屈に過ごすことしか出来なかった。
「だからこっちの世界は気楽でいいよ」
「毎日いい天気ですね。僕のところはずっと雪が降っていました」
天国のようで天国ではない、死者の魂がしばらく休めるように作られた世界で、私は彼と話をしている。
「私が生まれた国にもう戦争はなくて、偶にお年寄りがする昔話でしかなかった」
「……僕は兵士でした。沢山人を殺した」
昼になるとあちこちに生えている巨大な木が、茂る葉を黄金色に輝かせる。花が萎れて、またたく間に金色の実をまるまると太らせてゆく。辺り一面に広がる甘い香りを肺の奥まで吸い込んで、私は傍らに座る彼を見た。
「君はお昼の木の葉みたいな髪をしているね」
「そういうあなたは、夜のような髪の毛をしています」
「私の国じゃこれが当たり前よ」
「僕の国でもこれが当り前です」
黒と金の髪を風に揺らして、空気が冷えて夜になるまで日光浴をする。ここでよく休んだ魂はまた命を持って生まれ直し、死ぬまで沢山苦しみながら過ごすのだそうだ。
「私、次に生まれるなら君みたいになりたいな」
「どうして。僕の生まれは寒くて何もない所ですよ?それに、あなたのような髪の人間はどこにもいない」
「羨ましいからだよ。その金の髪が」
「ならば僕はあなたのように、平和な国に生まれたい。もう、人殺しはまっぴらです」
「つまらないよ。私の国なんて」
「けれど、穏やかです。街行く人が懐に銃を隠し持っていないというのは」
羨ましい…と呟いて、彼はその場に寝転がった。金色の草たちが、彼の姿を隠そうと、風に揺られて倒れてゆく。少しもしないうちに、彼の頭はその辺の草と見分けがつかなくなってしまった。
「私が生まれたら君の住んでいる所に行くよ。どっちに生まれても、どこに生まれても」
「なら、僕は待ってますから。あなたが誰でも、どこからやってきても」
「そういう話をしたんだっけね。まさかこんな形で出会えるとは思わなかった」
男はピクリとも動かない。出会い頭に撃ち込んだ銃弾が、確実に彼の命を止めていた。20余年、長いようで短い時間を、彼は生きてきたのだろう。
「私は雪国に生まれたよ。生まれてからずっと、人殺しをして生きてきたよ」
男の体を探り、弾を回収する。法律で武器の持ち運びが禁じられているこの国で、実弾の銃が見つかれば大騒ぎだ。
「君、黒髪も似合うじゃん」
私は予め用意していた服に着替えると、金髪を纏め、黒髪のウィッグの中に押し込んだ。最初から開いていた窓をくぐり抜け、女は異国の夜の中に消えていった。
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