第5話 靴の買い替え
今日、僕は新しい靴を買った。雨の日に履くための靴を買い替える必要が生じたのだ。今まで履いていたものもこれから履くものも黒い靴だ。メーカーは異なるが靴屋で店員に聞いて買ったところは一緒である。雨の日のための靴なのに浸水するようになって足が濡れてしまったのだ。かれこれ5年位は履いていただろうか。
友人に靴の写真を送ったら崩壊していると言われた。確かに傷んでいた。もう替え時ではあったのだ。新しいものと古いもの生き物も人工物も古いものは新しいものに取って代わられていく。生き物は寿命で、人工物は機能が維持できなくなることで、世代を重ねていく。生き物は土に還るが、人工物は還らない。生き物と違い、長く遺る。今の文明が滅びた後、かつての文明の名残として個人のゴミが発掘されるかもしれない。
さて、古いものを新しいものに取り替えたとき、古いものはどうするだろうか?人だったら、捨ててしまうわけにはいかない。そんなことをしたら大問題になる。だが人の都合で作られた人工物は捨てられてしまう。捨てなければ、まだ使い続ければ死なないが、用をなさなくなったり飽きたりしたら捨てられてしまう。機能を果たさなくなったら、命を持たない人工物の寿命が来たということになるだろう。製品のライフサイクルが終わる時が来たのだ。
今の時代、製品を造ったらそれでおしまい、捨てられた後は知りません、というモノづくりでは通用しない。ライフサイクルアセスメントといって製品を造るところから市場に出て捨てられるまでに環境に与える影響を調査する必要がある。環境に対して無頓着にものを作り、自然を破壊し続けることはもう倫理的に許されないのだ。
環境や工業の側面から見ても、ものを捨てる時には捨て方を検討する必要があるのだが、僕の場合はそれよりもずっとものに対する思い入れや愛着が首をもたげてくる。僕がこれを捨てたら、これは本当にゴミになってしまう、まだ使えるのに人間の都合で打ち捨てられるのか、などなどおそらく多くの人が気に留めないことをうだうだと考えるのだ。捨てるというのがとても苦手なのだ。
靴の話にもどそう。そんな僕だから靴も穴が空いたとか裂けたとか、靴として致命的な欠陥が生じるまでは買い替えないのが基本のスタンスである。ただ、靴は衣服の中でも歩くということに大きく影響するからその機能が損なわれているのなら速やかに買い替えたほうがいいという考え方をする人と聞いたことがある。その考え方で行くと、健康のためにもある程度以上傷んだら靴を買い替える方が良いということになる。
靴の買い替え一つでこんなに考え事をする必要はおそらく無い。だが、考えてしまう。新しい靴は足がずれなくて歩きやすい。
エッセイ アカイレイ @kimryo
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