第38話 オレンジ色の魔法少女
「あの!」
軽く息をついていると二人を守るように立っていたオレンジさんが俺に声を掛けてきた。
果たして、彼女たちは俺に対してどうでるか。
絵里香を放っておけないし、どうにか友好的に立ち回りたいがそれも相手の出方次第。いきなり攻撃される可能性も無きにしも非ず。
まあ、ついさっき助けたのもあるし、悪いようにはならないだろう。
改めて彼女を見やる。
しかし、落ち着いて見てみると随分と可愛らしい服装だな。これで戦うとか、実際に見た俺でも正直信じられん。
派手な髪飾りで橙色の髪をサイドテールに纏め、フリフリのドレスみたいな服にオレンジ色の宝石のネックレス。魔法少女さんとは若干違うが全体的に似たような格好だ。
これが彼女たちの戦闘服らしい。
そしてその横には妖精らしきぬいぐるみがふわふわと浮かんでいる。
彼女も魔法少女さんと同じ、妖精と契約した魔法少女なんだろう。
オレンジさんが座り込んでいる魔法少女さんに対して何か断りを入れてこちらへと歩いてやってくる。
こういう時、俺から動くのは悪手だ。
動かずに彼女が俺の元まで来るのを待つ。
彼女たちにとって俺はまだ、何をしてくるかわからない怪しい男だからな。静かに相手の出方を窺うのだ。
「あ、そうだ」
オレンジさんが真っ直ぐ俺まで来ようとして、何かに気付いたように立ち止まった。
それにしても、彼女の顔、どこかで見たことがあるような気がするんだが、気のせいだろうか。
魔法少女さんもそうだが、彼女たちは近くに住んでいるのかもな。二人とも見たところ高校生ぐらいだろうか。近くの高校って言えば俺の通ってるところぐらいだし、もしかしたらどこかですれ違っているのかも知れない。
共通の敵と戦う者同士、私生活でまで関わるつもりはないが、情報の共有は必要だと思う。
というか、色々と教えてもらいたい。
無事に化け物も倒すことが出来たし、いい機会だ。
俺が来るまで絵里香を守ってくれていたお礼もしたいしな。
けど、立ち止まってどうしたんだ?
俺の疑問に応えるように、立ち止まった彼女は眩しい光に包まれた。
その光は瞬く間に収まり、今度は小走りで俺の前までやってくる。
そして──。
「助けてくれて、ありがとうございました!」
あっぶねええええ!
危うく声が出るところだった。
魔法少女が光りだしたと思ったら、絵里香の親友で俺にとっても幼馴染の女の子──荒川加恋が出てきたんだけど手品か何かですか?
「えっ、どうかした?」
驚いた顔を見せないために表情を隠そうと咄嗟に顔を背けたが、仮面をつけていたからその必要はなかった。
急に俺が顔を背けて動かなくなったことで、荒川加恋こと幼馴染ちゃんを驚かせてしまった。いや、驚いたのは俺の方だ。
なんで幼馴染ちゃんがこんなところに?
いや、落ち着け俺、もうこれってそういうことだろ。たった今見たままだ。
幼馴染ちゃんが、さっきの魔法少女だったんだ。
そうか、だから絵里香は一緒にいたのか。
謎だった部分がようやくハッキリした。
何故、絵里香が魔法少女と怪物の戦いの現場にいたのか。
何故、危険な怪物を前にして逃げなかったのか。
大きな怪物と戦っている魔法少女が友達、それも親友だったら、絵里香は逃げないだろう。
「ちょっと! 変身解いたらだめでしょ!」
考え事をしていた意識が、絵里香を抱える魔法少女さんの叫び声に引き戻された。
「大丈夫だって、この人助けてくれたんだよ?」
「けど……」
魔法少女さんは俺のことをまだかなり警戒しているらしい。
いや、幼馴染ちゃんが無防備すぎるのか。
今の俺は、怪しい仮面男。
紛う事なき不審者だ。
いや、しょうがないのだ。
俺が俺だってバレないようにするにはこうするしか無かったのだ。
仮面以外にどうやって顔を隠せって言うんだ。
「あの……?」
俺が自分への言い訳をしている間に会話が済んだのか、幼馴染ちゃんが俺に向き直っていた。
ふむ、さっきまで魔法少女だったのに一瞬で絵里香と同じ制服を身に着けた普通の中学生だ。
オレンジ色の魔法少女。心の中でオレンジさんなんて呼んでたが、彼女は絵里香の親友の荒川加恋だった。
だが、気付かなかったのもしょうがないだろ。
彼女が魔法少女に変身した姿は俺と同じぐらいの年齢、もしくはそれ以上に見えたからな。間違っても去年まで小学生だった人の身体ではなかった。
今は色々と縮んでしまったが。
いや、こっちの方がいつも通りの姿か。
まだ仮説だが、魔法少女は変身すると年齢が変化するのかもしれない。
現に魔法少女に変身した彼女は、かなり成長した姿だった。
魔法少女さんも、もしかしたら年下の可能性が出てきたな。
さて、どうしたものか。
彼女とは最近あまり話していなかったとはいえ、声を聴かれたら俺の正体がバレる可能性がある。
けど、何も言わないのも不自然だからな。
「……」
「えっと、お兄さんもあの化け物と戦ってるの?」
質問されたので一応、頷いておく。
こうしてみると、普通の女の子なのにな。俺の知ってる幼馴染ちゃんと変わらない。
ついさっきまで怪物相手に大立ち回りをしていたとは思えない。
「そうなんだ! 私たちもあの怪物と戦ってて!」
あれだけ大きな怪物に投げ飛ばされてたのに無傷とは、魔法少女の身体は中々に丈夫らしい。
ただ、動けなくなっていたのを見るに、ダメージはあるのかも知れないな。
出来るなら、彼女たちの力になりたい。
「あの、それで! え?」
手で幼馴染ちゃんの言葉を制する。
情報の共有などもしておきたかったが、今はやめておこう。俺の事がバレることを考えたら喋れないし。
このまま話してたらボロが出そうだ。
「何を?」
意味はないかもしれないが、治癒魔法を彼女たちにかけておく。魔族の女の子に使ったのと同じものだ。まあ、疲労回復ぐらいにはなるだろう。
よし、これで気兼ねなく帰れる。
「なんだか、元気になった?」
効果はあったらしい。
後ろの方で此方の様子を見ていた魔法少女さんも自分の身体の変化に驚いているのが見える。
「また会おう」
フードを深く被りつつ、喉に力を入れて声が低くなるよう意識しながらそう言い、【妖精魔法】で透明になる。
「あっ、消えちゃった」
「回復、してくれたのかな」
「何者だったんだろ、あの人」
魔法少女さんたちが話しているのを背中に聞きながら、人目のない場所を目指す。
何を話しているのか気になるが、一先ず俺だとはバレてなさそうだから問題ない。
さて、怪物は倒せたが、まだ残ってるんだよな。
俺の今後を大きく左右するであろう問題が。
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