第19話 魔法2

 この魔法が攻撃に使えなければ正直詰みだ。

 それは、頼みの綱の【確殺】も消えて、世界を滅ぼそうとしている奴らに対抗できる攻撃の手段がなくなったことを意味している。


 だから早々にこいつの威力を試したいところではあるが。


「けど、試し打ちにつかえそうな物もないしな」


 右手で妖しげな輝きを放つ青い炎を見ながら呟く。

 ここら辺、物が何もなさ過ぎて撃てそうな場所がない。仮にお試しで柱に撃って、もしこの魔法に殺人級の力が込められていたら目も当てられない。


 尤も、それはないはずだ。

 昨日絵里香を眠らせたときよりも魔法を使った際の疲労感が少ないからな。


 多分、この疲労は魔力を消費したことが原因だろうから、今回の魔法にそこまでの威力が込められているとは思えん。

 けど万が一、下手な場所に撃ってそこから亀裂が入ってなんやかんやあって橋が崩れでもしたら責任が取れないからな、慎重にいこう。


 世の中何が起こるか分からないからな。ニートがトラックに轢かれたら女神に転生させて貰えるような確率の出来事がもう二度と起こらないとも限らない。


「今回は大人しく川で消火しとくか」


 川の中なら被害も少なそうだし、威力は山にでも行って試そう。ここに来たのは【妖精魔法】を試すためだけではない。

 この能力はほかにも色々出来そうだし、こればっかり実験していたら日が暮れてしまう。

 早いところ他2つも試さないといけないんだ。


 しかし、何をすればいいのかわかんなくてとりあえず火の玉出したけど、これって動かせるのかな。


 魔法使いといえば魔法を自由自在に操るものだと思うが俺にそこまでの力量があるとは思えない。

 こちとら魔法使い初日だからな。


 練習すれば自由に魔法を操って、火の玉の形とかも変えられるようになったり熟練度が上がったりするものなのかすらわからない。

 それなら練習するやる気も出るんだが。


 っとその前に川まで飛ばせるか、だな。能力を使った感覚的には行けるとは思う。

 魔法を出すのも感覚でいけたから、川に飛ばすのも頭の中でイメージでやってみるか。


 手を川に向けて、青い火の玉が川まで飛んでいくことを思い浮かべる。

 体から魔力みたいなのが抜ける感覚があり、体に軽い疲労感を覚えながら、火の玉が流れ星のように尾を引いて綺麗に川まで飛んでいった。


「発動だけじゃなくて、飛ばすのも若干魔力を使って疲れ……」


ドッバアアアアアン!!!!


「は?」


 水で火の玉がジュッと消えるのを想像していたわけだが、火の玉はゆっくりとした動きで水面に着弾すると、謎の破裂音とともに弾け飛び大きな水しぶきを上げた。


 なんだ今の。


「い、威力は問題ないみたいだな」


 いや、そうじゃないだろ。

 咄嗟に現実逃避しかけたが、なんだ今のは。


 俺の飛ばした火の玉が水面についた瞬間、爆発したぞ。あんな威力があるなんて聞いてない。

 下手したら死人が出るぞあの威力は。本当に殺人級じゃねえか。


 まあ、柱とかに撃たなくてよかった。もしも撃ってたら事故じゃすまなかっただろう。橋を崩壊させてしまうところだったかもしれないんだ。

 安易な行動に出なくてよかった。


「なんで、水の上でまだ燃えてんだよ」


 恐るべきことに、先程大爆発を引き起こした俺の魔法は、水に触れても消えることなく川の上で燃え続けている。


 ん、もしかしてこの川に流れてんのって全部油だった?

 え? 奥さん川に食用油流したらダメですよ?


 油に火が引火しているのを動画で見たことがあるが、液体の上で炎が燃えている光景が不思議だったのを覚えている。

 それと似たようなことが目の前で起きているが流石にこの川が全部油なわけないのは俺でもわかる。


「なにこれ、消えないタイプ?」


 どんなタイプだ。こんなん妖精が使う炎じゃないんだけど。

 悪魔とかが使いそうなんだけど。

 見た目は星が散ったりして可愛いのに、地獄の業火って感じなんだけど。

 くそ、爆発しただけで困ってるのに消えないとかどういうことだよ。


 頭を抱えていたが、慌てて周りを確認する。今の音と水しぶきで誰かが来てもおかしくない。それは非常にまずい。


 魔法で爆発なんて信じて貰えないだろうし、下手すりゃ爆殺物で遊んでる危ない高校生として捕まってしまう。


「……大丈夫そうだな」


 周りを確認したが誰か近づいてきたりはしなかった。元々、河川敷の公園の方で遊んでる人はいなかったし、誰かに見られた心配は無さそうだ。


 そうとなれば、


「この炎をどうにかしないと」


 水の上をメラメラと燃えている自分の出した魔法を見る。

 これ、このまま放置は不味いだろ。見た目も明らかに普通の炎じゃないし、水に入っても消えないんだ。もしもこの火が人や野生の生き物に引火したら恐ろしいことになりそうだ。


「出せたんだから消せたりしないのか?」


 咄嗟に思い付いた事だが、試す価値はあるだろう。水面を燃やし続ける青い炎に手をかざす。


「消えろ」


 火が消えることを祈りながら一言、口に出して言うと、消えずにいた火は一瞬で消えた。

 また軽い疲労に襲われることを覚悟していたが、意外なことにそれはなかった。


「消せた、か。それと、出した魔法を消すのは魔力を消費しないで済むんだな」


 また新しい発見ができて嬉しいような、最初からハプニングが起こりすぎて困るような。

 ここは、素直に喜んでおくか。

 うむ、図らずではあるが色々と実験もできてよかった。


 冷静になって考えれば、こんな力があるなら人様の妹を魔法少女にしてないで自分で戦えよあの妖精。

 素直にそう思わずにはいられない。


「まあ、水しぶきで濡れなくてよかった」

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