第18話 魔法

 学校から歩いて数分。


 人のいない場所について考えた結果、俺は河川敷にやってきた。子供が遊べるような公園になっていたり結構広い芝生なのだが、用があるのはこんな開けた人目に付く場所ではない。


 俺の目指している場所は公園からちょっと進んだところにある大きな橋の下。

 ここなら日も当たらないし、なかなか人も来ない。更に橋を支えるデカい柱の陰に隠れて誰かに見られる心配もない。

 小学生が秘密基地とかにしそうな感じだ。


 俺がここを思い付いたのも、前世で小学生だったときに河川敷の橋の下を何人かで集まり秘密基地を作っていたからだ。


「案外きれいだな。まあ好都合だけど」


 もっと地面に雑草とか生えまくって伸び切ってるものだと思ってたんだが、しっかりとコンクリートで塗り固められていた。

 これでは大人の宝物は落ちてなさそうだ。


 俺が子供の頃は河川敷やら茂みの多い場所はそういうスポットとして有名だったんだがな。これが時代かね。今の若い子はみんなデジタル機器か。


 閑話休題。


「さて、どの能力から試していくかな」


 俺には元々、女神からもらった3つの能力があった。

 殺した相手の力を奪う【強欲】、病気にならない【無病息災】、どんな相手も確実に殺すことができる【確殺】。


 この内の2つは現代社会において使い道がない死にスキルだったんだが、つい先日、というよりも昨日、使う機会が訪れてしまった。

 使わざるを得なかったとも言う。


 あの喋るぬいぐるみから妹を守るには不可避だった。


 その結果、女神がくれた最も強力な【確殺】が使えなくなってしまったが、後悔はない。絵里香を戦いから守ることができたと思えば安いものである。


 それに失っただけではない。【強欲】の効果によって、喋るぬいぐるみの能力を奪うことが出来たのだ。


 頭の中に自分の持っている能力が浮かんでくる。

 どんな仕組みなのかは未だに知らないが、あの女神が色々サポートしてくれているんだろう。女神の謎パワーだ。


 普通に生きていれば自分の能力が頭に浮かぶなんてないだろうからな。



【強奪】

【無病息災】

【確殺0/1】

【妖精魔法】

【契約】

【変身】



 増えた能力は3つ。

 確殺は使えなくなってしまったが数だけで言えば収支プラスだ。


 あのぬいぐるみ一体からこんなに能力が手に入るとはね。一つでもゲット出来れば御の字だと思っていたからな。

 正直、あの時は強欲の発動は賭けだった。過去に部屋に侵入してきたゴキブリを殺虫剤で仕留めたときには発動しなかったからな。


 数が足りないのかと思っていたが、今回はあの謎生物一体で済んだ。生き物の数が問題という線はなさそうである。大量の虫がいる場所なんて行きたくないし試したくはないから心から違っていてほしい。


 ハエやらゴキブリから奪える能力なんてたかが知れているだろうし、ゴキブリの能力とか心情的に手に入れたくないので手に入れなくていいけども。


 そもそも数が問題なんて言い出したら、個体差とかはガン無視することになるしな。全ての生き物から能力を奪えるわけではないってことなんだろう。


 それじゃ早速だが、手に入れたスキルで一番気になっている能力から試していこうか。

 【妖精魔法】。

 この能力が手に入れていることがわかったときが、ここ最近で一番テンション上がった気がする。


 女神に魔法の存在する世界だと言われてはいたものの、そういうのは殆ど諦めていた。手に入れた切っ掛けは不満だが、ここは素直に喜ぼう。

 転生してから早17年、遂に魔法がつかえるのだ。


 それにしても【妖精魔法】か。もしかするとあのぬいぐるみって妖精だったのかね。世界の平和を守るために現れた妖精なんだろう。

 絵里香を魔法少女に選んだセンスは素晴らしい。けど、それは俺が許さない。倒してしまったのは申し訳ないが、お前の力は俺が有効活用して家族を守るために使わせてもらおう。


「けど、どうやって使うんだ?」


 昨日、絵里香が急に眠ってしまったのは、この能力が発動したからだと考えてる。

 この予想が合っていれば俺は一度魔法を発動できたってことだ。妖精の魔法だから人間には使えないってことはないと思うんだが……。


 確殺は心の中で念じるだけで発動できたから、同じようにやってみるか。


「けど、いざ魔法が使えるとなると何すればいいのかわかんないな」


 まず、相手を眠らせることはできるんだよな?

 まだ可能性の段階だが、ここじゃ相手がいないしそれは試せない。妖精魔法なんて名前だし相手を眠らせるだけの能力なわけないだろうから、他に何ができるのか試したい。


「火でも出してみるか?」


 本当に出せるか分からないが物は試しだ。それに火ならすぐそばにある川で鎮火できるしね。

 手のひらが上になるように右手を前にだして心の中で手から火が出るイメージをする。


 昨日は、絵里香が安心して眠るように考えながら話していたら絵里香は眠っていた。頭の中でイメージすることか、魔法発動に結び付く言葉のどちらかがキーになっていそうだ。もしくはその両方で魔法が発動するんじゃなかろうか。


 頼むから出てくれ。

 自分の中で魔法が発動しそうな言葉を探す。昔、絵里香に読んであげてた絵本の魔法使いはなんて言って魔法を使ってたっけな。

 確か……。


「火よ」


 絵本の魔法使いをイメージしながら、火が出るように口に出す。


「っ!」


 昨日ほどではない軽い疲労感が訪れる。右手から出たものの勢いに前髪が揺れる。


「……思ってたのとは違うけど、成功か」


 火を出すことには成功した。俺はもっと普通の炎を想像してたんだけどな。


 焚き火のようなパチパチと燃える炎が出ると思っていたが、俺の右手から出てきたのは青いクレヨンで塗ったような不思議な色合いをした炎だ。

 パチパチと火の粉が散るのではなく、小さな黄色い星がパチパチと舞っていてこれはこれで綺麗だ。本当に妖精の出した炎って感じである。出したのは俺だが。


 手のひらでふわふわと浮いている不思議な火の玉に思わず頬がにやけそうになる。 

 昨日の発動は殆ど不意打ちで俺自身意図していないものだったからあまり実感が湧いていなかったのだが、今のは違う。

 自ら意識して魔法を使えた。

 

 異世界ではなく現代に転生してしまい、諦めていた魔法が使えて口角が上がらないわけがない。


 本当なら雄叫びでも上げたいぐらいだが、まだ落ち着け俺。


「問題は、これが攻撃に使えるか、だな」



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