第11話 能力
時刻は午後10時。
昔の俺ならこの時間帯は一日の始まりだったが、今は普通に眠い。改めて前世は生活リズムが乱れまくりだったな。
それに引替え、今世の俺は至って健康的な生活リズムだ。これは俺の努力の賜物といっても過言じゃない。
今、リビングには俺と母さんの2人しかいない。
絵里香は入学式に疲れてお風呂から上がり早々に眠ってしまったし、父さんもさっきまで起きていたが絵里香の中学校入学が嬉しかったのか酒を飲み過ぎたみたいでもう寝ている。
かく言う俺もそろそろ寝る。
見たかったドラマも終わったことだし。それに眠い。
ソファから立ち上がった俺にテレビを見ていた母さんが顔を上げた。
「あら、しおんちゃん寝ちゃうの~?」
「寝るよ。明日から学校だし」
妹の入学式も無事に終わり、それと同時に俺の春休みも終わってしまったのだ。天国は終わりを告げ、明日からは地獄の学校生活だ。
明日から高校二年生なわけだが、気になるのはクラス替えだけだ。勉強に関しては今まで通り授業をしっかり受けて家で軽く復習すれば問題ないはずである。
明日のクラス替えの結果によって、俺の二年生の生活が左右されてしまうといっても過言ではない。
どうか、平穏な学校生活を送らせてくれるクラスメイトであることを祈ろう。
不安だ。
一年生のときは前髪で顔を隠して適当に本を読んでいたら、話し掛けてくる人もおらず、自然とボッチになった。
ある意味平穏だった。うむ、後悔はない。
恐らく、二年生に進級してもそれは変わらないだろう。本を読むのはすきだしな。
「そうよね~、明日からさみしくなるわねぇ」
「学校に行くだけだよ、それじゃ寝るからね」
母さんは専業主婦だから、買い物に行く以外は基本的に家にいる。
いつも家にいて、趣味とかあるんだろうか。暇なときはずっとテレビ見てる気がする。
今度オススメのアニメとか教えておくか。
「私もそろそろ寝ようかしら」
「それがいいよ。おやすみ、母さん」
「そうね、おやすみなさい」
ソファから立ち上がり二階の自室に行く。
ドラマも見終わったんだし母さんもすぐ寝るだろう
この世界が明らかに地球なのはこの際、放って置くとして俺がこのパラレルワールドに転生してから、偶に考えてしまうことがある。
転生してからの生活は幸せすぎて本当に夢みたいだった。だからこそ考えてしまう。この生活は、転生したことも含めて夢なんじゃないかと。
もしも目が覚めたら本当俺はまだあの部屋の中で引きこもりのニートのままなんじゃないか。
転生したばかりの頃は不安になって眠れなくなったりもしたが、妹が、絵里香が生まれてからはそれもなくなった。
俺は、今ここに生きているのだ。
電気が消えているのを確認して妹の部屋の前を通りすぎる。
自分の部屋の扉を開け部屋に入り、俺はそのままベッドに倒れこんだ。
もう眠いがその前に日課を済ませる。これはもはや癖だ。
頭の中に、自分の持っている能力が浮かんでくる。
☆
【強欲】
【無病息災】
【確殺1/1】
☆
うん、相変わらず変化なしだ。
この世界に転生してからステータスプレート的なのがないか試してみたこともあったが、そんな物はなかった。
だが、持っている能力は頭の中に浮かんでくる。
今はこの3つしかないが、【強欲】があれば殺した相手の能力を奪える。
しかし、今まで生きてきて強奪について分かったことは、アリとかハエとかの虫を殺しても能力は奪えないってことだ。何を殺しても能力を奪えるってわけじゃないらしい。
それなら何を殺せば能力が手に入るんだって話だ。まあ、それがわかったら苦労しない。
俺が今使える能力は【無病息災】と【確殺1/1】の二つだ。
【確殺1/1】は誰でも確実に殺せるっていうチート能力だが、一度しか使えないから無暗に使えない。というよりも使い道がない。今のところ、この能力は俺の安心材料に落ち着いている。
山で熊に襲われようが安心安全だ。
その場合、クマの能力が手に入るのかが気になるところだ。
【無病息災】は発動してるのか不明。今まで一度も風邪ひいたこともないし大きな病気になったりもしないから発動してるはずである。
俺が女神からもらった能力は敵がいないと何の意味もない。
異世界に転生してたなら使い道もあったんだろうが、現代社会で生きていくうえで完全に持て余してる。要するに俺はただ健康なだけのイケメンだ。イケメンだ。
最初はがっかりもしたが、この生活も結構気に入ってる。今回の人生では家族を大事にして生きていければそれで十分だ。
「案外悪くないよ、女神」
ベットの上で呟く。
これからも平和な生活がこのまま続いていけば、それが一番だ。
「寝るか」
明日から学校が始まるのはえりかだけじゃない。俺もだ。それだけが憂鬱である。学校に行って楽しいのは友達がいる奴だけだ。俺は楽しくない!
このまま目を閉じてたら、すぐに眠れそうだ。安眠できるって素晴らしい。早いところ寝て明日に備えよう。
☆
「ん、まだ夜か」
目が覚めて窓の外がまだ真っ暗なことに気が付いた。夜中に目が覚めるなんてかなり久しぶりだ。
開いた窓から外の冷えた風が部屋に入ってきて身震いする。
「あれ、窓開けてたっけ?」
開けた覚えはないが、部屋の窓が開いていた。
「寒っ」
誰だよ窓開けたの。まあ、俺の部屋だから俺以外ありえないんだけど。春先なのに夜はまだ冷えるな。
どうやら閉めるの忘れてそのまま寝てたみたいだ。危うく風邪ひくところだった。
「そういや、風邪ひかないわ俺」
そう考えると中々使える能力だよな。今まで暮らしてきて一度も病気にならないんだから流石は女神の力って感じだ。感染症とかにもならないのが強い。
寒いものは寒いから窓は閉めるけども。
ベッドから立ち上がり、みんなもう寝てるだろうし静かに窓を閉める。しかし困ったな。寒さで完全に目が覚めてしまった。
「しゃあない、眠くないけど寝なおすか」
もう日付を跨いでしまっているが、朝というには早すぎる時間帯だ。
朝まで待つのもいいが、生活リズムが乱れるのは勘弁したい。今世は健康的な生活を送ると決めている。夜は寝るのだ。
「その前にトイレ~」
起きたついでに行っておこう。
音をたてないように部屋を出てトイレに行く。
家中真っ暗だ。流石に俺が寝る前まで起きてた母さんももう寝たみたいだな。
暗闇の中そろそろと階段を下る。
トイレに行くぐらい、わざわざ電気つける必要もないだろう。エコだ節電だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます