第一章
第6話 妹は天使
俺、天開紫苑には前世の記憶がある。
前世は10年間の引きこもりニート期間を経て、トラックに轢かれて死ぬというろくでもない最期だったが、その後に女神のおかげで転生することが出来たのだ。
この天開紫苑というのは今世の俺の名前。中々にかっこいい名前で気に入ってる。
そう言えば、あの女神の名前聞いてなかった。
お世話になったんだから名前ぐらい聞いておけば良かったな。
またいつか会えたら、そのときはちゃんと名前聞こう。死なないと会えないとかだったら暫く先になりそうだけど。
無事に転生することができ、嬉しいことに今世の顔はかなり整っている。今はまだ子供だが、文句無しの美少年。
このままいけば将来はかなりのイケメンになるはずだ。あとは目指せ高身長。
そして驚くべきは髪の色。
なんと、今世の俺は濃い青色の髪をしているのだ。染めたりしてない地毛。そんでもって瞳の色も青。
前世が黒髪黒目の日本人だったからかなり驚いたが、この世界ではこの派手な髪色も普通らしい。
黒髪や茶髪の人の方が多いが、100人に1人ぐらいの割合で派手な髪色をしている。
その殆どが染めたりしているわけじゃなくて地毛で紫色や緑色の髪をしているのだ。外を歩いていると結構な頻度で俺みたいな髪色の人を見かける。
生まれたときに母親の髪の色を見て流石異世界、と感動したものである。
それは良いんだ、それは。整った顔に転生させてくれた女神には感謝しかない。この髪色も気に入ってるしね。
俺が文句を言いたいのはそこじゃない。
「はぁ」
「おにいちゃんどうしたのー?」
「ああ、ごめんごめん。」
俺は今、妹に絵本を読んであげている。俺と同じ綺麗な青髪をしたとても可愛い妹だ。天使だ天使。
もう可愛くてしょうがない。妹の名前は天使。違う、絵里香だ。
今も俺の膝の上にちょこんと座って絵本の続きを読んでもらうのを待っているのが可愛すぎる。
まだ3歳になったばかりだが、可愛がりまくっているお陰で順調に懐いてくれている。
毎日、遊んで遊んで絵本読んで、とせがんで来る天使の誘いを断れるだろうか。否だ。
早く続きを読んであげねば。
いや、そうじゃなくて文句だ。俺はあの女神に文句を言ってやるんだ。
「しおんちゃーん。テレビの音量下げれるー?」
今世の母親が今は手を離せないらしく、俺を呼んだ。
すぐ側にテレビのリモコンが置いてあったので絵本を読みながらでも御茶の子さいさいだ。
「はーい、、、これぐらい?」
「うん、ありがとーねしおんちゃん」
今世の俺の母親、とても美人だ。
青色のゆるふわロングヘアを肩から垂らし、垂れ目気味なおっとりしたお母さんって感じ。
そして、胸がデカい。でかい。
青髪おっとり巨乳お母さん。非常に良い。
ここも女神への感謝ポイント高い。可愛い妹に美人な母親。これだけでもう幸せと言ってもいい。
そんなお母さんは今、台所で家族のお昼ご飯を作ってくれている。
去年から小学校に通っている俺は普通ならこの時間は学校にいるが、今日は日曜日だ。
お陰で妹に絵本を読んであげることが出来ている。
父さんは会社から電話があって無事に休日出勤に赴いていった。
可愛い娘を可愛がる機会に恵まれずに可哀想だが、仕方ない。大手企業に勤めてる父さんの仕事は中々に忙しいらしい。
日曜日まで働くとか、前世ニートだった俺には尊敬しかできないが、倒れたりしないか心配だ。
流石に今日はすぐに帰ってくるらしいがな。
「魔法使いは世界を平和にするために悪い怪物と戦いにいきました」
まあ、それは良いとして、文句はこの世界についてだ。
なにかというとこの世界、地球なのだ。
うん、そのまま地球なのだ。
髪の色やら細かいところに違いはあるが、前世の地球と殆ど一緒。もはや違いがそれしかない。
今のところ、髪の色が派手な人がいるぐらいしか違いがない。
もう地球と言っても過言ではない。
というか地球だ。
若干の違いの正体について、この世界はパラレルワールド的なものなんじゃないかと思ってる。
そうじゃないと説明がつかない。だって地球なんだもん。
ありがたいことに日本だよこの野郎。
なんだろうか、ひしひしと感じるこの騙された感は。この世界を異世界だと思おうと頑張ったけどさ、明らかに地球なんだよここ。
テレビあるしスマホもあるんだよ。
その上、魔法とかは存在しない。
詐欺だ詐欺。
あの女神言ってたよな、魔法があるって。
転生してから、早8年。無事に小学二年生になったが、今のところ魔法のまの字も見ていない。
魔法魔法詐欺だこんなの。
異世界に転生っていったら、中世ヨーロッパっぽくて、もっと魔物がいたり魔法が発達してたり、魔王が世界を支配してたりするもんじゃないのか!
今のところ、そういうのに全く出会えていない。
こんなの異世界転生じゃないやい!
いや、平和なのは全然ウェルカムなんだけどさ!
しかし、問題はある。
女神からもらった力は問題なく使えそうだが、それこそが問題だ。
こんな世界じゃ女神からもらった能力が全く意味を成さない。病気にならないってのはかなり有難いんだが、それ以外は宝の持ち腐れだ。
確実に殺せる能力なんて物騒でしかないし使い道が無さすぎる。
それと強欲、これは原因不明なんだが、ハエやらアリみたいな虫を殺しても発動しなかったのだ。
こんな世界なら、もっと別の能力が良かった。
透明化とか時止めとかね。ゲフンゲフン。
「魔法使いのお陰で世界は平和になりましたとさ。めでたしめでたし。えりちゃん面白かった?」
「おもしろかった!もういっかいよんでー」
妹、絵里香は俺に絵本を読んでもらうのが好きなようでこうやって繰り返し読んでもらいたがる。
ああ、荒んだ心が浄化されていく。
同じ絵本を何度も読むのは疲れるが、天使な妹のためだ。お兄ちゃんは何度だって読むぞ。
「えりちゃんは絵本大好きだね」
「うん!おにいちゃんにごえほんよんでもらうのだいすき!」
いかん、可愛すぎて危うく吐血する所だった。
うちの妹は本当に天使なのかもしれない。
だが、絵里香の前で変な姿は見せられない。俺はかっこいいお兄ちゃんを目指してるのだ。
「あのね、えりかね」
「ん?」
妹が俺の膝の上でモジモジしだした。どうした?
ああ、トイレに行きたいのかな。
そろそろお昼ご飯も出来上がると思うし、その前に連れていくか。
「ごえほんよんでもらうのね、おにいちゃんにぎゅっとしてもらえるからすきなの!」
「グハッ」
誤解を招くような言い方はやめなさい。確かに膝の上にのせて抱きしめる形にはなってるけども。うちの妹は本当に天使な上に小悪魔なのか!
この歳でこんなにあざと可愛いとは。
お兄ちゃんは将来が心配だよ。
くそ、前言撤回だ。この世界に転生させてくれた女神に文句なんてない!
妹可愛いから!
そんなに多くを求めすぎれば罰が当たるというものである。第二の人生に感謝だ感謝。
さて、一先ずお兄ちゃんを可愛さで苦しめる天使には罰を与えなければ。
「くすぐったいよー」
とりあえず妹の頬っぺたをつんつんむにむにしてたら、お昼ができた。
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