第5話 至れり尽くせり
『要するにですね、貴方には異世界に転生する権利が与えられたってわけです』
女神が人差し指を立てながら説明してるが、ちょっと理解が追いつかない。ちょっと何言ってるかわかんないってやつだ。
お礼を言ってから、なんだか距離感が近くなったのは気の所為だろうか。
「要するに、異世界に転生できるってことですか?」
『要するに、そうです』
要するにそうらしい。
「それは……魔法とかが存在する世界ですか?」
『その通り、魔法の存在する世界です』
異世界に転生って、あれだよな。昨今のライトノベルとかアニメとかでよく見るやつだよな。
剣と魔法の世界に行って神様から貰ったチートな能力でバッタバッタと敵をなぎ倒してハーレムするやつ。
まあ、チートを貰えるかは分からんし、俺にハーレムが出来るか分からんが。30年以上生きてきて、彼女出来たことないし望み薄だ。
けど女神の話が本当なら、俺にもその可能性があるってことだろ?
俺にモテる素養がないのは前世が証明してるとして、頼むから来世はイケメンが良い。そうすれば少しはモテるんじゃなかろうか。
俺からすれば、イケメンってだけでもうチートだからな。世のイケメンが羨ましくてしょうがない。
顔面偏差値の低い人生を送った身としては来世に期待だ。本当に。
まあ、今から異世界に転生出来るらしいし、女神様が配慮してくださることを祈ろう。神頼みだ。
この願い、届くだろうか。
目の前の女神は微笑んでいる。
さておき、異世界転生だ。
死者1兆人目なんて理由で選ばれたのが不服かつ不謹慎な気がしなくもないんだが、気にしたら負けだ。
正直、死んだこととか忘れてちょっと顔がニヤけそうである。最初は理解が追いつかなかったが、少しずつテンションあがってきた。
けど喜ぶのはまだ早いか。
まず、異世界に行くにあたって一番大事なことを女神に確認していない。二度目の人生ってだけでかなりありがたいが。
『ええ、分かっていますよ。異世界に行くにあたって貴方には幾つか能力を授けます。』
何とも話の早い女神だ。
「そ、それは強力な?」
『その通り、神が与える特別な能力ですから』
神様からチート能力きたー!
よし! 不安が一つ解消された。一度目の人生を終えて、二度目があるというだけで凄いのにチート能力まで貰えるんだ。もう怖いものなしだ。
いや、まだどんな能力か確認してないな。欲しい能力選べたりするのか?
『能力は、【強欲】殺した相手の能力を奪い自分のものにする能力です』
殺すだの奪うだの、女神の口からめっちゃ物騒だな。微笑みながら喋るもんだから余計怖い。背筋がゾクッとする。
貰える能力を選べないのが不満ではあるが、能力自体はよくラノベとかに出てくるチートの中でも有名どころだな。
敵を倒せば倒すほど強くなることができるチート中のチート。弱いところからどんどん強くなっていくのはロマンだ。
『それだけじゃありませんよ。転生してすぐ死なれてしまってもつまらないので病気などを無効にする能力と一度だけどんな相手でも確実に殺すことができる力を与えましょう。最低限のサポートはさせてもらいますよ』
「……は!?」
ちょっと至れり尽くせりすぎない?
最低限どころか出血大サービスじゃないか。転生後のアフターサービスまで完璧。簡単に言うと、3つの能力を貰えるってことだ。
サービス過多が過ぎる。いや嬉しいけど。
貰える能力を選べないなんてことはぶっ飛ぶくらいに文句のつけようがない。異世界転生の相場なんて知らないがこれが普通なのか?
それとも、そんな危険な世界なのか。
至れり尽くせりすぎるし、裏を疑うとすればこれだよな。すぐ死んでしまうほど危険な世界。
強奪系のスキルは、敵を倒せば倒すほど強くなることができることが強みだが、敵を倒すまで弱いことが難点だ。
俺がこれから転生するらしい異世界にどんな生物がいるのか知らないけど、女神がこんな殺すことが前提の物騒な能力を渡して送り出すような世界だ。
地球のように平和な世界ってわけじゃないだろう。魔物やら人間と敵対する種族なんかがいたって不思議じゃない。
俺の心の中を読んでいるだろうに女神は微笑んだまま、何も言わない。転生先の世界に対する言及は無しか。
しかし、女神にここまでしてもらえるんだ。そう簡単に死ぬことは無いと思いたい。
「に、にしたって絶対に殺せるって」
チートすぎる。
女神の言葉通りなら、自分より格上の相手だって殺すことができるんだ。例えば、魔王なんてのがいたとして、それを子供のまま倒せる能力だ。
『一度だけですけどね』
一度きりの使い切りの能力だとしても破格の能力だ。仮にその力で魔王なんて倒した日には、そのままその魔王の力を手に入れることができてしまう。
世界最強の力を【強欲】で奪ってしまえば、そのあとは女神のサポートがなしでも簡単に死ぬことはなくなる。
まあ、そう簡単にいかないだろうけど。
ゲームだって、魔王を倒すのも大変だが魔王城にいくまでのほうがもっと大変なのだ。確実に殺せる力があったとしても、子供の身じゃ魔王城までたどり着けないないだろうし。
問題は使いどころだな。
弱い敵ぐらいいるだろうし、そいつらを倒してゆっくりと強くなっていければいいだろう。
最初の敵はスライムやゴブリンと相場が決まってるのだ。徐々に相手の強さを上げていければ、安全に強くなれるはず。
異世界で戦うこと前提なあたり、俺のゲーム脳も相当なものらしい。子供の頃からRPGも好きだったしな。しょうがない。
それに弱いより、強い方が絶対にいい。
これだけサポートしてもらえるんだ。不安も大分解消される。
でも……良いんだろうか。
特に良いことをしたわけでもないのに、10年間ニートしてただけの俺が異世界に転生する権利なんかもらってしまって。
『良いのです。特別な何かをしたわけでなくてもあなたは選ばれたのですから』
女神が自信にあふれる顔でそう言い切った。
選ばれたって1兆人目じゃあなあ。でも、女神なりの優しさだと思って受け取っておこう。
少しだけ救われた気がした。
なら、最後に聞いておきたいことがある。
「俺の……俺の両親は、母さんはどうなりましたか」
10年間引きこもりをしていた俺を見捨てないでくれた両親のことだ。聞いておかないと、俺は先になんて進めない。
父さんが言うには、交通事故で意識不明らしい。
怪我の程は聞いていなかったから、最後に聞いておきたい。
『貴方の母親は無事に病院で目を覚ましましたよ。貴方の死についてはショックを受けていますが、周りの人の支えもありますので徐々に立ち直るでしょう』
そうか。
それを聞いて少し安心した。
父さんも兄さんもいるし、兄さん夫婦にはまだ小さい子供がいる。引きこもってる負い目から俺は殆ど会ったことがないが、父さんも母さんも初孫を随分可愛がっていた。
あの子らも見舞いに行くだろうし。
目が覚めたなら、何とかやっていくだろう。
家の中でも部屋に引きこもって親のことは避けていた。迷惑を掛けていることが申し訳なくて、自分が情けなくて。昼夜逆転の生活もなるべく家族と顔を合わせないためにしていた気がする。
最後の最後まで、親孝行できなかったな。
親不孝な息子でごめん。父さんも母さんも、長生きしてくれ。俺も頑張るからさ。
『それでは、転生しますか?』
そう言えば、権利があるだけで確定じゃなかったんだな。
答えは決まってる。
「お願いします。俺を異世界に転生させてください」
来世は家族に迷惑をかけずに、立派に生きてみせる。それと出来ればイケメンでお願いします。
最後にそれだけ願って、そのまま意識を手放した。
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