三章

第48話 一息つきたい

 通りをずっと進むと、入り口とほぼ反対にある木製の塀の近くまで来た。右手に小さな扉を内包した閉まっている大きな門がある。

 その左手の側、少し離れた場所にログハウスのような造りの家が建っている。他の建物は入り口の方に集中していたのに、この建物はあまりにもこちらの門に近い。

 トウはそのログハウスの扉の前に立つと鍵を開けた。


「どうぞ、入ってください」


 トウが扉を開けてくれるのでみんなで入った。誰もまだ話していいか分からないみたいで黙っている。

 最後にトウが中に入って扉を閉めた。


「すみませんでしたね。もう好きにしてかまいませんよ」

「はー! いきつまる!」

「ピリピリしてたな……」

「あれ、渡しちゃって良かったのか?」

「良いんですよ。元々そのつもりで買った分でしたから。当然と思われたくはないのですけど」


 喋りながらトウは奥に設置されていた棚に袋を収めていく。それは自分たちに買ってきたものだろうが、あまりにも少ない。

 その棚自体もがらんとしていた。


 もっとたくさん買わなかったのか? 言いかけてやめた。

 食料はお金さえ出せば無限に買えるものではないんだ。感覚がまだ平和な世界にいた時のままだ。


「ねえ、水は平気なの?」

「ギリギリ浄化が間に合っていますのでなんとか。長引けばだんだんと駄目になるでしょうけどね」

「大本はどうにか出来ないのか?」

「今回の原因になった魔物は倒したんですよ。でも倒したところで一時しのぎで無駄なんです。しばらくすればまた何かしら脅威になるものが現れる。同種の場合もそうでない場合もありますが、何もないときはないんです」


 トウが閉まっていた門の方を見る。

 あの門の向こうにいる、のか。

 ここまで来た道々に襲いかかってきたモノは簡単そうに倒していたトウ。俺は食われるしかないな、と見たでけで諦めたくなるような大きさのヤバそうなモノも、図体だけですよと笑って倒していた。

 そのトウの強さがあっても、楽勝といかない敵があの門の向こうにいるのか?


 倒しきれない敵がいるのは、食料問題が解決したところでどうにもならないだろう。

 俺にめちゃくちゃ超スペシャルな討伐力があれば良かったのに、という話ではあるかもしれない。一般人以下の能力でしかなくて謝りたい。


「僕の仲間は全員出払ってますが日が沈む頃には何人かは戻って来ます。今の状況を聞いておきたいので遺跡に行くのは今日でなくてもいいですか?」


 ケーシャもグロリアさんもうなずくだけで、しんとしてしまった。

 俺以外みんな強いのに、いたたまれない!

 でも何も分からないのに大丈夫だと無責任なことは言えない!


「よ、よし! なんか作って待ってようか! 材料は俺持ちでさ。なにがいいかなー」


 とさ、っとリュックを置く。さて出してもいいものなんだろう?

 ふたをめくって悩んでいたら後ろからとふっとロアが来た。

 俺のリュックに美味しいものが入っているのを知っているからだな? あージャーキーあげたい。犬用のしょっぱくないジャーキー。残念ながら入ってないから肉でいいかな。素焼きにしよう。

 そんなことを考えていたら、ケーシャがぽんと俺の頭に手を置いた。


「そうだな、肉をごろごろ入れたスープを作るか。手伝うよ」


 ケーシャを見れば笑っているけど少し悲しそうにしている。

 戦うことは何もできない俺だからせめて暗くならないように笑っておこう。


「トマトも入れよう長いやつ。トウ、帰ってくるの何人?」

「え、今日は多分3人ですね」

「なるほど。大きい鍋がいるな」

「鍋ならここにありますけど、良いんですか?」

「なにが?」

「食材が」


 ついきょとんとしてしまうところだった。

 にっこりと笑って「もちろん」と答えればトウも笑い返してくれた。


「ありがとうございます。楽しみにしていますね」

「任せておいて」


 とは言ってみるものの、お部屋さんなら美味しいもの出してくれるけど俺の腕じゃそこそこのものしか作れないけどな。


 ケーシャは俺を手伝ってくれて、グロリアさんはトウとなにやらしだした。


「あの二人気が合っちゃったな。変なもの作らないといいんだが」

「二人の合作? の俺が乗ってきたやつすごい便利だったけど」

「あんなのなら良いんだけどな」


 グロリアさんって薬を調合してるイメージしかないから変なものなんて作りそうにない。ケーシャはグロリアさんが何をすると思ってるんだろう。


「そういえばケーシャ、トウと戻った時に食料詰めてきた?」

「詰めてきた。エータにもらった袋に入れて」


 俺があげた袋ということはそれは。


「……実験中ですか?」

「そ、長期の実験中」


 ニヤリとされた。そりゃ俺がもしかして? と思うことなんてケーシャももしかしてと思うよな。


「それもそうだったらどうする?」

「どうもできないけど楽しくなってくるな。今度から果物持っていけるんだぞ」

「あーそっか」


 果物は駄目だよな。ぶつけたところから痛むし。俺なんてリュックぶつけまくってたし。いや、空間袋はそれ関係ないか? そもそも持っていくなら乾物だろうしな。

 解析できて再現ができる構造ならみんながハッピーだろうに。


 鳥肉たくさんに玉ねぎ、人参とじゃがいも。これだけ見るとカレーだがここにトマトを入れるのでカレーにはならない。ハヤシライスでもない。完熟トマトではないしな多分。そもそもルーも香辛料もない。

 作るのはミネストローネもどきだ。今から乾燥豆をどうにかはできないので豆なし。

 あとなにか入れたいなと漁ったらしめじが数株出てきたからついでに入れることにする。

 適当な大きさに切って鍋で肉を炒めてから他の材料を順次入れていく。水を入れて煮込む。火が通ったら味をつけよう。


「な、パンは出していいかな」

「どのパンだよ」

「甘くないやつ」

「エータの出すパン全部ふわふわしてるんだよな」

「駄目かな」

「んーいいんじゃないか? どのくらいここに滞在するかは分からないけどいつかはばれるだろ」

「そう、だな」


 買い出しにいかないのに尽きない新鮮な食料を隠すのは難しい。こっそり食べるのも嫌だしな。


「トウには明かしても大丈夫だろ。前にあの空間にいたのなら説明……」

「できるか??」

「できるといいな!」

「無責任〜!」

「ま、協力してるんだしエータのこと売ったりしないって」

「それは心配してないけど」


 なんで同じところにいたのに体験に違いがあるのか。トウの仲間が帰ってきたらそれも聞きたい。俺だけあんなに快適だったんだろうか。申し訳なくて言いたくない。


「よし。聞かれたら、にするわ」

「なんで?」

「だって全く説明できないからな!」

「はははそりゃそうだ」

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