第47話 重たいお喋り

 そこから先は畑とぽつぽつと木が生えている風景だ。小屋もいくつか建っている。


「体力を今からつけるよりいいと思います」


 降りようかと聞いたらすごい圧を感じる笑顔のトウからこう返ってきてしまい一人だけ歩かないのよりも遅いほうが罪だと実感したのである。

 途中小さな村があった。


「村があるのね」

「こんなに人が住んでるんだな」


 もう道沿いにまっすぐ進めば目的地につけるらしくケーシャとグロリアさんそれにロアが先を歩いていた。

 その少し後ろに俺、何故か隣にトウがいる。


「ここからはぶつかる心配も少ないですしお喋りしませんか」

「なにを? 俺有益な話できないけど」

「エータさんはどこまで聞いていますか?」

「どこまでとは」

「人の少なさ、彼らの幼少期とか」


 目を細めたかと思えばトウは前を歩く彼らを見た。


「聞いていいか分からなくて何も聞いてないけど」

「そんなことあります!?」

「だって話したかったら話すだろ……? 違うのか?」


 言いたくもないことを言わせる趣味もないしそこまでの興味もなかった。


「あなたは受け身なんですね」

「えなんかごめん?」

「いえ、あなたがしていられるのは受け身であったことに意味があるのかもしれませんし。ともかくざっくりと説明しますとこの世界は一回滅びかけています」


 人が減る理由なんて戦争か気候変動みたいな外的要因かだろうが滅びかけとは穏やかではない。


「それなのに、滅びかけたことを理解している人の記憶にどうして滅びかけたのかという原因と過程は含まれていませんでした。説明できる人がいないのです。明らかに彼らの記憶に何かあるんです」

「言いたくなくて隠してるのではなく?」

「聞いた人全てが口裏を合わせていると? 流石にそれはないでしょう。それにどうしてそうなったのかを調査しているという人の話も聞かないなんて異常です。同じことをに繰り返さないためにも知っておくべきではないでしょうか。これなら魔王でもいてくたら良かったと思ってますよ」


 トウは顔に手を当てて止まってしまった。


「なんでそんな話を?」


 前を向いてトウは歩きだす。


「目的地が前線と呼ばれるところなんですけど倒しても倒しても減らない敵でどうにかしたいんです。正直もう投げ出したいんですけど、投げてしまったらあふれた敵がどうするか、考えるまでもありません。ここには嫌な人もいますけど死んでほしいわけではないですから。

僕らだけでは敵を押し留めているだけでずっと何も変わっていない。でも怪我はするし疲労も溜まっていきます。そして敵の取りこぼしが出てしまい、畑が潰される井戸が使えなくなる。終わりが見えてこないんですよ、別の終わりは見えてきましたけどね」


 笑えない冗談を言わないでくれ。

 急な重い話になんて返せばいいんだ。ご愁傷様です? 大変でしたね?

 のほほんと過ごしてきて申し訳ありませんと言いたくもなるが多分そうではない。


「元を断ちたいという話で合ってる?」

「合ってます。僕らは敵を倒すのに精一杯で調査したくとも出来ないんでその辺を上手く誘導してもらえませんか」

「疑問を持たないことに対してどうにか、は」

「難しいんですよね。でもグロリアさんは見込みがあります。未知のことに興味があるのはいいですよ。繰り返しを良しとしていないのですから。本当は遺跡調査の人に持ちかけてみようとしたんですけど金に興味しかないタイプとしか会わなくて」

「それは運のない……」

「いい加減、前に進みたいんですよ」


 トウは歩調を早めた。どうしたのかと思えば目前に木製の長い塀と門が見えた。

 前の二人と話すと戻ってきた。


「ここからは面倒なので歩きましょう」

「分かった。ありがとな助かったよ」

「いいえ」


 トウはそれをどこかにしまうと先頭を歩き出した。他のみんながこっちに来る。


「堂々と歩いてろって」

「堂々?」

「きょろきょろしないようにって言われちゃった。ちょっと我慢しなきゃ」

「あと口も手も出すなって」

「それは」


 嫌な感じしかしない。

 さて、二人に挟まれ後ろにロア。前にトウ。何のフォーメーションだ。

 門がある割に通る時に何があるわけでもなくするりと通過できた。振り向きたかったがぐっとこらえた。中は建物が道を挟んできれいにまっすぐ並んでいる。この道は歩きやすいようになっている。

 しばらく進んでいくと大柄の筋肉質の男がトウの前に出てきた。


「よう。進展したか? 早くしてくれよ」

「今工面しているところですから、お待ち下さい」

「はっお前たちと違って俺たちは死にやすいんだからな」


 トウが男を睨む。


「僕らだって死なないわけではありませんよ」

「試してないのに分かるのかよ。はーこれだから」


 男が大げさに両手を広げて首を振る。


「急いでいますのでどいていただけますね?」

「手ぶらじゃねぇだろ。置いていけ」


 二人は睨み合っていたがトウが折れた。袖を降ると大きな麻袋と紙袋がいくつか出てきた。多分食料、穀物が入っているはずだ。町で見た袋に見える。


「向こうも物資は潤沢ではありませんでしたので当面これでどうにかして下さい」

「これっぽっちでどうしろっていうんだ!?」

「文句があるならご自身で動いたらどうなんですか?」

「俺がここから動いたらどう」

「なら我慢なさい」


 食い気味に言うとトウは歩き出した。男はもう突っかかってこない。ギャラリーがぞろぞろと集まってきていた。怪我をしている人が多い。

 男は聞こえるくらいの舌打ちをすると、周りの人に指示を出しトウの出したものを運ばせる。自分も両手に抱えてどこかへ運んでいった。


 トウに何か言いたいが手も口もと言われていたので黙って後をついていくしかなかった。

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