第46話 気が合いました

「出てきたというか入れ代わった後にそこに居たんですけどね」

「入れ代わり」


 俺は少女を思い出す。もしかしてあの少女は、生きてこの世界にいるのか?


「他の仲間も同じことを言っていましたから。なのでそこから中に入れるのではないかという仮説が立つんですけど僕にも誰にも何も見つけられませんでした」

「それで俺なのか?」

「向こうから入れたのならケーシャさんには何かある。可能性がゼロではないなら試してみたいのです」

「ま、行こうとしていた方向だ。グロリアは」

「むしろ遺跡が見たいわ」

「ということだ。エータはついてくるだろう?」


 他に選択肢のない俺はうなずく。

 食料は大事だよなくらいしか実感はない。正直俺なんの役にも立たないし。リュックから出てくるかもであろう食料も量の確保と継続性は何も分からないもんな。

 不確かなものを当てにさせては悪いのでぼんやりと彼らの話しているのを眺めつつ、あまりにも長いので途中で寝落ちた。



「じゃあ後日。よろしくお願いしますね」


 起きた時には話はまとまっていた。トウは用事を済ませてくると出ていった。

 日にちはこちらが合わせる感じになったらしい。


「廃棄遺跡ね」

「何かあるかもしれなくても廃棄になるのか?」

「調査費と利益で調査費の方がかかるようになれば引くかどうかは責任者のさじ加減よね。粘る人は粘るわよ。一人でもね」

「費用が出なくなってくるか」

「そりゃそうよ」


 利益が大切なのはどこも変わらないな。


「でも何でそんな離れたとこに出入口作るんだ」

「あっちが元々の方なんじゃない? 人が多いところに転送点作るのは分かるわよ。ケーシャが入れてたホールがイレギュラーだったんじゃない?」

「そうか」


 ケーシャがいれば俺がついていく必要もない気がする。あの空間に入っていたのは俺だけど出入りができていたわけではない。


「入れるといいわね」


 楽しそうなグロリアさん。俺は、道々ついていけるかが不安だがそうですね、と返した。



 出発当日。


「はいこれ。つけておいて」

「腕輪?」


 グロリアさんに渡されたのは銀色の輪の内側にびっしりと文字が刻まれていて表面にオレンジ色の石が一つ。


「ロアがつけてたのと同じ効果のよ」

「喋らなければ、っていうのですか?」

「そうそれよ」

「でも地面が変わるわけじゃないだろ」


 とはケーシャだ。確かに歩く時にどちらかというと足元の状態のほうがかかわってくる。


「違うわよ。攻撃が避けられるかなって」

「あーそれはいいかもな」


 つまり、何かに襲われても声を出さずにいれば攻撃は当たらないということか。頑張ってみよう。


 町の外に出て西の森へと向かう。

 トウは他の人がついてくると困るからまいてくると言っていたらしい。子供について先に進もうとする人間がいるか?


「どうやって合流するんだ?」


 先頭を歩くケーシャに聞く。と、手にコンパスを持っていた。しかしそれは北を示していない。


「これで分かる」

「トウ君を指してるのね。個人を指せるなんて面白いわ」

「借り物だけどな」


 針の指す方へ進む。西の森は暗いが前に通った森よりは少しだけ歩きやすい。

 小さい魔獣が出てきては俺以外の誰かの手にかかり死んでゆく。好戦的なのかひょいひょいやってくるのは俺が弱いからだとは思いたくない。そういう性質だと言うことにしておきたい。


「来ましたね。お待ちしてましたよ」


 少し開けた場所でトウ君は待っていた。白い板を持っている。


「トウ君言ってたものはエータ君に渡してあるわ!」

「いいですね! こちらも改造済みです。試してみましょう」

「え、何?」

「諦めろ……」


 ぽんとケーシャが俺の方に手を置いた。俺の知らない間に何かの計画が進んでいたらしい。


「さ、乗ってみて下さい」

「ここに?」


 言われるがまま板に乗る。渡された紐を持つとトウが俺の背中に手を当てる。板が浮いた気がした。いや、気ではない薄ら浮いている。


「ここからですよ」

「どうかしら」


 グロリアさんとトウがなんだか楽しそう。何も言うまい。


「こっちを見てください」


 トウの方を見るとゆるりと足元が動く。動く歩道に乗っているのようだ。


「そのままそのまま」

「先に木があるけど」

「そのままそのまま」

「????」


 木の幹にぶつかる前に止まった。すると二人が飛んできて俺を板から降ろす。俺につけておいてといった腕輪を外され二人で何かをしだした。


「しばらくかかるだろうから座っておけ」


 いつの間にか座っているケーシャと伏せているロアの近くに座る。


「気が合っちゃったみたいでな」

「それは、いいんじゃないか?」

「どうだろう」


 何回か乗ったり進んだりして木を通り抜けることができたら二人はハイタッチしていた。


 それからは乗っているだけで進むので便利で疲れないし遅れることもないので精神負担がなくなった。

 ずっと黙っているのもまあ慣れてしまえば苦ではない。

 最初声を出してしまっては乗り直し、トウに魔力で浮かせてもらってまた進んでいたが。

 そうして付いていくとこのパーティは進むスピードが早いことが分かる。トウがいてこれなのだからケーシャに悪いことしたなと無言でいると考えてしまう。


 一回夜に野営をしたくらいで西の森は抜けることができた。

 戦闘がある度にみんなの強さを実感した森だった。なんで俺ここにいるの?

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