第45話 行き先

 ケーシャが出かけた次の日はごろごろしようと決めていた俺はクッションと一緒に裏庭に出ていた。町の外れにあるこの一軒宿は人の気配がしなくて静かだ。


「たまにはいいよな」


 怠惰に過ごしていたせいでたまに一日何もしたくなくなる。この頃頑張っていたので休もう。休息も大事だって聞くしな。

 いつまでも美味しいパンの山は少しずつ食べている。グロリアさんにも好きにどうぞと言ってあるのでいつかはなくなるだろう。

 ぽかぽかとした本物の太陽は暖かくさっき起きたというのにまたすぐに夢の中、だ。



「エータ君どこ〜?」


 家の中からグロリアさんの声がした。クッションに半分以上沈んだ体を起こして返事をする。


「ここですよー」

「もしかして外?」


 寝起きの声でも届いたらしい。このままここで待つのは駄目だろうと立ち上がるがグロリアさんがこちらに来る方が早かった。ロアがぼすっと鼻先を俺とクッションの間に突っ込んでくる。撫でちゃうぞ。


「あら日向ぼっこしてたの? クッションまで出して」

「ははは」


 柔らかく笑われるとどうしていいか分からなくなる。


「ずっとここにいるなんて退屈でしょう? 外に出てみる? この町ならあまり危なくないわよ」

「えーっと」


 俺は好きでこうしているで退屈とは無縁なのだが、弱いのを自覚していて自主的にこもっていると思われていないか?


「じゃあグロリアさんの暇なときにでも」

「なら今から行きましょ」


 隣にグロリアさん少し後ろにロア。案内されるまま町を巡った。

 泊まっている所もだが全体的に木で出来ている建物が多くガラスが使われている窓もある。

 建物の中にある店もあるがにぎわっているのは露店形式の店だった。お祭り屋台のあの感じをもう少し丈夫にしたような屋根のあるものからただシートを広げて品物を置くフリマタイプ。扱っているものも様々だ。


「欲しいものあったら言ってね。このお金エータ君のものでもあるから」

「はあ」


 経緯は軽く聞いたがそうかなあ、と思ってしまう。俺なら売ったとしても相場も何も知らないのでぼられて終わり。もしくは相場で買ってもらってもその後誰かに奪われる可能性もある。

 しかし見ても別に欲しいものがない。俺こんなに物欲なかったかな。ここに定住するわけじゃないので大物はいらない。アクセサリーに興味はない。食べ物はある。

 今欲しいものなんて体力で、売っているわけがない。


「ほら、こういう服とかどう?」

「服ですか」


 そういえばケーシャが着てるのに似た服を外着としているがあと持ってるのは馴染めそうもない現代服だ。


「数枚あった方がいいですね」

「そうでょう! 選んであげようか?」

「良ければ目立たなそうなものを」


 自分にこの世界の感覚は備わっていない。任せたほうが安心だ。

 色の好みを聞いてくれつつ上下と上着、靴などを買ってもらう。


「姉ちゃんこの間のと違う男だね」

「あら、どちらも私の弟みたいなものですよ」

「そうかい?」


 一緒にいてこうからかわれることが多いがグロリアさんは気にする感じではなかった。

 美人、だもんな。慣れてるんだろうか。


「ちょっとここだけ寄るわね」


 そこは小さな実から大きな葉っぱまで扱っている植物店のようなところだ。


「いくらでもどうぞ」

「そんな時間かからないわ」


 邪魔にならないようにと脇に避けるとロアが寄り添ってきた。背中を撫でてもじっとしてくれているのでそのまま撫でさせてもらった。


「飯は何にしよう」

「怪我をしたらしい」

「寝てばっかで働かない」

「どこを探しても見つからない」

「珍しいものを仕入れたよ」

「おまけしてあげよう」

「頭から入れるバカがいるか!」


 ざわざわと言葉として聞こえてくるものこないものをぼーっと聞き流す。活気のある、と表現して間違いない場所だ。

 音だけ聞いていれば知っている世界のようだ。

 グロリアさんの買い物が終わると宿へと戻った。



 たまに体を動かしたりグロリアさんの作業を眺めたりロアと遊んだりしているうちにケーシャたちが帰ってきた。


「早くないか? え、途中で引き返してきた?」

「すごいんだよ」

「何が?」


 グロリアさんもやってきた。


「どうだった?」

「やっぱり俺しか入れなかった」

「そう。トウ君が入れたら私も入れるかな〜って思ってたけど。あれ調べたいんだけどなー」


 グロリアさんならあのガラクタ部屋から使えるものを見つけられるだろう。ケーシャに往復させてあの部屋の中を移動させるっていう手もあるが。


「それでなんですけど、皆さんはこれからどんな予定ですか?」


 パタンと戸を閉めてそのまま戸の前に立っているトウ。以前のように音のもれない魔法でもかけたのだろうか。ここの世界呪文がないから分かりにくいんだよな。


「一応西の森を越えてみようかってことにしてるけど」

「なら一緒に行きませんか? 僕がいた所に調査済みになっている遺跡があるんですけどそこに来てほしいんですよね」

「遺跡があるの?」


 グロリアさんが食いついた。好きそうなイメージあるもんな。


「調査済み遺跡というか、廃棄遺跡なんですけど」

「廃棄ということは権利放棄されてるの?」

「一応権利は誰かが持ってたはずですけど、使える物は何も残っていないから出入りは自由です」


 遺跡に権利なんてあるのか。発見者のものなのかな。


「そこで何がしたいんだ?」

「ケーシャさんに入り口を探してもらいたいんです」

「入り口?」

「僕らはあの遺跡から出てきたんです」

「え」

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