第33話 忘れてたバナナ
外に出て3回目の朝。
夜に寝れば朝に目が覚めるものなのだ。そう、今は昼ではない。朝なのだ。よく見えなくても昇っていく太陽はいいものだな。ぐーっと両腕を上にあげて思いっきり伸びる。
「あ」
俺は怖ろしいことを思い出した。
青くない、いい感じに黄色いバナナの房を、あの荷物を詰めた日にリュックに入れてしまったことを。これはもうシュガースポットどころではない! 近くにあったからって会社の昼飯代わりじゃあるまいし何故入れた俺。バナナはきっと真っ黒だ!
リュックを開けてバナナ! と心の中で叫んだ。溶け落ちたバナナは触りたくない。手の先に当たるバナナは――なんと溶けていなかった。程よく硬さを保ったなんとまだ黄色い良い感じのバナナの房だった。きっとちょうどよく熟しにくいバナナだったのだろう。
「良かった……」
こんなことに動揺するなんて疲れてるのか? まあ確かに一人でいるときよりも運動量は増えている。でもそのおかげでよく寝れているのも事実だ。よく分からん。
両手でバナナを持って今食べきってしまうべきか悩む。十一本も付いてるけどな。
「エータ君いいもの持ってるわね」
「いります? バナナ」
「それ、ばななっていうの? 甘くて美味しいわよね」
「ですよねー。俺も好きです」
はい、と房から一本外してグロリアさんに渡す。外しやすくて良かった。熟したら上のところから千切れちゃうもんな。そのくらいでも食べるには好きだけど。
二人でバナナを食べる。柔らかすぎないバナナだった。
「あのね明日出発しようかってケーシャに話をしたのよ」
思っていたよりも早い出発だったな。口に入れたバナナが飲み込めず返事ができない。
「ふふ、そのままでいいわよ。私これから荷物をまとめるからエータ君も支度しておいてね」
「っつ分かりました」
咀嚼してそれだけは伝えることができた。残ったバナナはとりあえず戻した。
ロアは、食べていいのかな? 犬と同じなら食べ過ぎは良くないのだが。まあ三人の人間の口があれば黒くなる前には食べ切れるだろう。
とはいっても。支度なんて寝袋にレジャーシート、練習用にと出していた青の杖にリュックくらいしかないので三分で終わる。しゃがんで入れてセットして立てばどこでも行ける。
洗濯物でもあれば畳んだりするのだがグロリアさんのおかげで洗濯物がないのだ。
魔法で綺麗にしてもらう時、体だけでなく服も全て綺麗になっている。洗濯しなくていいですねと言ったが気分的にしたくなる時もあるらしい。なるほど?
ケーシャがホールがあると思われる辺りから出てきた。
「エータ、聞いたか?」
「出発するって話か? なら聞いたぞ」
「なら良かった。走ってたみたいだから聞いてないのかと思った」
「支度するほどのものがないんだよ」
グロリアさんは荷造りしているみたいだしケーシャは食料を揃えていてロアも何かしに行っているのかいなくて。そんな中俺ひとりクッションにまみれてゴロゴロしているわけにはいかなかった。せめて体力づくりをしようとしたわけだがそんなに走らないうちにケーシャが戻ってきた。
「なら肉を包むの手伝ってくれないか?」
「肉? いいぞ」
「じゃこれ広げて」
「おう」
ケーシャに渡された大きな布を広げているとロアが戻ってきた。つるりとした表面の大きな葉っぱがたくさん付いた枝を咥えて。
「いい大きさのホンゾの葉があったな」
ケーシャがロアから受け取る。葉の一枚がケーシャが隠れるほどの大きさだ。
「これで肉を包むと普段より持ちが良くなるんだ」
だからそんなに大きな葉っぱなのか。
「洗うのか?」
腰に差しておいた青の杖を取り出す。出てくるのは飲料水ということだから洗うのにも使えるだろう。
「いやこれについている成分が大事だから洗わないで軽く拭くだけでいい」
「なるほど」
ザワークラウトにするキャベツみたいなもんか。ちょっと違う気もするけど。
ケーシャが一枚一枚葉っぱをちぎるのを俺が受け取って布で葉っぱの表面を拭くことになった。
「泥や虫をよければいいから強く拭かなくていいぞ」
「程よくということか」
まあそんな厳密にじゃないということなのだろう。肉には火を通すしな。多分。
それからケーシャが持ってきた肉の塊をその上に乗せて肉が見えないようにくるりと一枚。まだ出ている部分を隠すようにさらにもう一枚。パタパタッとたたんで紐で結んだらひとつ完成。これをなくなるまでするのだが。
「いくつ持ってきたんだ?」
「あるだけ」
「そんなに食べるか?」
「残ったら売るんだよ」
俺がいるから町までの到着日数がそんなに増えるのかと思ってびっくりした。足手まといになるだろうなあという思いがずっと胸の中にある。
「前はこんなに持って行けなかったんだぞ」
「なんで」
「容量が足りなくて。エータがカバンに石にとくれただろ? 助かってるんだ」
「そ、そうか? ……それは良かった」
俺が出したわけではないけれどそう言われると少し胸が軽くなる。残りの肉を包んでいるとロアがもうひと枝持ってきてくれた。さすがに包むものがないんじゃないかと思ったがそんなことはなく、なくなるまでこの作業は続いた。
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