第14話 需要と供給

 俺ができることなんて魔獣を狩った素材を売るか、護衛任務を受けるか、討伐依頼を受けるかだ。しかしどれも一攫千金にはならない。

 内臓……いや駄目だ。これからのパフォーマンスにかかわるから無しだ。たがあと高額で売れてかつ、手に入りそうなものなんて発掘品か魔石関係しか思いつかない。

 通行の邪魔にならないところで突っ立って悩んでいたらグロリアがやってきた。ロアが俺の腕の間に鼻先から入ってきた。よしよし。


「ケーシャ! 何か食べて待ってるかと思ったのに」

「いや」

「ねえ、聞いて! 今薬の需要があるみたいでね。ちょっと色つけてもらっちゃった!」


 なるほどそれで上機嫌なのか。いつもよりも弾んだ感じがする。買取額が良かったとはなんといい報告だ。


「ケーシャはどうしたの? ぼられちゃったの?」

「違う。そうじゃなくて」

「あらじゃあ何?」

「実はな。さっき発掘品を売ってる店があって」

「あら珍しい。ケーシャが興味を持つなんて何か使えそうなものだったの? 剣とか?」

「精巧な子供の人形なんだが」

「……そうなの」


 子供、と聞いてグロリアが嫌そうな顔をした。別にそういう趣味があるんじゃない!


「グロリア、何を考えているか分からないがそれがエータの身代わりに使えるんじゃないかって考えてただけだ」

「なーんだ。ならいいわ。……いえ、値段次第ではよくないわね」

「…………1490」

「無理よ! そんなのどれだけ稼げばいいのよ!! どうせ効果も確実じゃないんでしょ?」

「……そうだな。俺の想像と願望だ」

「駄目よ。駄目。そんな博打にお金は貸せないわ。そもそも足りないしね……」

「分かっているさ」


 がっくりとうなだれる。

 稼いでは使い、稼いでは使う。別に贅沢をしているわけじゃないのにカツカツだ。物価が高すぎるのに売るときは足元を見られがちだ。今すぐお金がいるのだろう? と。

 武器の整備もしたいし、靴は気を使うところだと考えているし。食事は言うまでもない。

 たまにはベッドで寝たいしな。


「うーん……仕方ないわねぇ」

「グロリア?」

「そんなしょんぼりしたあなたのことなんて見ていられないわ。解決するまで引きずるでしょう?」

「いやそれは」

「一度あの森に戻りましょう。何往復かすればその金額の足しにはなるわ」

「……え?」


 グロリアが俺を人気のない方へ引っ張る。その後ろをのんびりとさっきまで伏せて寝ていたロアがついてくる。

 グロリアは小声で俺に耳打ちをした


「西の森の調査が正式に決定したようよ」

「ついにか」

「メンバーはもう決まってて内密に決行するらしくてね」

「何でグロリアはそれ聞けたんだ?」

「薬よ」

「あ、なるほど。だから需要があったってことか」


 小さくピースをするグロリア。合点がいった。

 グロリアの作っていた薬は時間が経てば経つほど効果がなくなっていくタイプのものだ。その効果減少量は微々たるものではあるが貯蔵には向かない。

 すぐ使うならいい回復効果が望めるだろう。


「他にも集めているみたいなのよね。何かあったら薬と一緒なら、優先的に買ってくれるってことよ。しばらくは継続的に必要だから作れるのなら欲しいみたいよ」

「今の内って訳か」

「そ、調査終わったらパァよ。やるなら早く動かなきゃ」


 とんとんと足踏みをしだすグロリア。

 これは俺が目標にしている金額が貯まらなくても貯金になるなとか思っているな。いや、機を逃すまいとするのは大事なことだ。


「しかし西の森の調査か。時間かかりそうだな……」

「前回は入った途端に出てきた魔物に攻撃が効かなくて逃げてきたって話よね。攻略法でも見つかったのかしら?」

「そうじゃなくて行くなら無謀だろう。森から外には追いかけてこないと聞いたがそいつから逃げ回っての調査は現実的じゃないだろ」

「そうよねぇ。入った途端に会ったのならきっと森の中にはいっぱい居るわよね……それに魔物がそれだけなわけがないだろうしね」


 倒し方のある強敵と、倒し方がない中級の敵だと厄介なのは後者だろう。倒れないのにこちらはダメージをくらうのだから。そんなのに囲まれたくはない。


「さ、需要なくならないうちにやるわよ。ま、大金になるってわけじゃないけど途中何か珍しい素材でもあればいいわね」

「悪いなグロリア」

「そう思うのなら早く本調子に戻ってちょうだい」

「努力する」


 ということで軽く食材と水を確保した後、少しでも足しになればとグロリアの薬の材料調達の為にあの森に戻ることにしたのだった。

 

 ****


「でも正直、あの中にいる子が外に出るためにお金かけるのはメリットなんにもないのよねー。あの空間保持できるか分からないのが特に困るわ」


 とはグロリアの独り言である。

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