第15話 欲しいもの
「お部屋さん。俺もあのいっぱい入るカバンが欲しいなー……なんてな」
ひとつふたつみっつ。
なぜ俺が膝をつき、玄関の床に向かっているかというと。
壮大にぶちまけたからである。
がらくた部屋からパズル的なものを発掘したのでうきうきと持ってきたのはいいのだが。
木枠と山程のピースを入れた四角いケースと俺の体の幅3倍くらいの大きさのベースの板。それが全部ぎりぎり持てたのでいける! と高をくくったのが間違いだったのだ。
扉を開けておかなかったのも反省点だ。
あの入れ口よりも大きな物すら収納できるカバンがあればこんなことにはならなかった気がする。
ぶちまけたピースが小さく拾っても拾ってもある。
いくつあるのが正解か分からない。足りなくてもわからないんじゃないか?
もう見逃しはないなと思った頃には、って時間がわからないんだったな。でもまあ気分が深夜だ。
パズルは明日考えようとその日はすぐに寝たのだ。今日もきちんと走ったのですぐに寝てしまった。
起きてみて。本当に、俺はお部屋さんに甘やかされているなということを再確認した。
パズルが完成していたのではない。
件のカバンにそっくりなカバンが置いてあったのだ。サイズはA4が入りそうなくらい。形は斜めがけバッグに似ている。
そっとそれを持ち上げてみる。
「お部屋さん……」
欲しいと言った時はそんなつもりで言ったけど、でもそんなつもりだったわけじゃないんだ。
とは言っても見た目が似ているだけの普通の収納力しかないカバンかもしれない。
そして寝ていた布団を持ち上げて、カバンの口に当ててみると、すっっと収納されてしまった。
「お部屋さーん!!」
思わずぎゅとカバンを抱きしめた。
これで物の移動がらっくらくらく! ってなもんである。
どのくらい入るのか試してみたくなる。部屋にあるズボンを5本、Tシャツ3枚、ポロシャツ4枚を入れてみてもあふれてはこない。
「ふむ……」
風呂場に向かってオブジェと化している大きめ洗濯カゴも入れてみる。入った。
「え、無限なのか? まさかな」
ケーシャがなんて言ってたかなと思い出そうとするが内容量については話していなかった気がする。……ということは無限という可能性もありうるということか。
とりあえず走ってから考えるか。考えても無駄な気がしたわけでもあるが。
と、服がない。そりゃそうだ。カバンにしまったもんな。何となくこれは走る用、と決めたTシャツを出さないと。
「……?」
カバンを開けてみる。しかし、その中は空である。
底が見えて何も入っていない。入れたものどこいった!?
慌ててカバンの中に両手を入れてみるも見えたままの底。触ることのできる底。サラサラした手触りの内布だな。
「じゃなくて!」
収納って何だったっけ。
左手はカバンに突っ込んだまま、目をつぶってこめかみを右手で揉んだ。もう一回あのTシャツをお部屋さんが出してくれるのを待つか?
と、左手に布が触れた。それを掴んで出してみる。
「あ」
手には出したかったTシャツ。カバンを覗く。やはり空のままである。
もしかしてとカバンから視線を外して、出したいズボンを思い浮かべる。……ビンゴ。カバンに入れていた手にはズボンが一本。
思い浮かべるだけで出したいものが的確に出せるだなんて便利だ。
ただし、何を入れたか忘れない限りだが。忘れてしまったらどうするのだろうか。
さて、今日も黒い壁の外周の草むしりを少し進めた。それから限界まで走り込み――その後しっかりと動ける程度の限界だが。
日々の成果が出ているんだか出ていないんだか。数字で見ることができない為に実感がわかない。
「アイタタタ」
準備運動不足だったのかふくらはぎがピキュっときた。危ない。しっかり伸ばしてから運動しないと。慣れてきておろそかになっているかもしれない。
そろそろとこれ以上痛めないように部屋に戻るとヨガマットが立っていた。ストレッチをするがいいということですかお部屋さん。
脇にはこっそりダンベルがある。500グラムのものが2つ。初心者だからな、そのくらいからしたほうがいいってことだな。
この間からプロテインが置いてあって、今日これか。
お部屋さんは俺をどうしたいんだ? ムキムキ……は無理だぞ。そんなに頑張れないからな?
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