第13話 珍しいものがありました
「思ってたより遠かったわね」
「……そうだな」
目的の西の森に一番近い町についた。柵があり、門があり、その脇には武装した人がいる。想像していたよりも大きな町だった。
しかし俺はエータのことを引きずっている為にどうもテンションが上がらない。無事に町に着いたのだというのに。
この景色見せてやりたかったな。
「ちょっと、ケーシャ大丈夫? もう10日もたつのだからいい加減切り替えて」
「わかってはいるんだ」
「どうかしら」
呆れたような困った顔をしたグロリアにたしめられる。
反省はしている。道中の戦闘が上の空でミスが多かったのだ。
「薬売れるところ探してくるからその辺見ててちょうだい」
グロリアにロアもついていった。ああして獣を護衛として連れているのは珍しくない。……グロリアは弱くないけど。
グロリアと別れて露店を見て回る。
野菜に果物、剣に武具。アクセサリーに衣類など町の規模にしてはなかなかだ。
と、大きな人形を売っているのが目にとまった。
人形、だと思う。座っている子供にしか見えないが。
同じことを思った人間がいたのだろう、頭に売と書いてある紙が貼ってある。
「おや、見ていくかい」
「あ、いや……」
俺に気づいた店主が声をかけてきた。
「目を引くだろ。売れはしないがいい客引きだよ」
店主が人形を起こして顔を見せてきた。が、顔を見たって人の子供にしか見えない。
ぎょっとしてじろじろと見てしまう。眉もまつ毛も描いてあるのではなく生えているようだった。唇のシワもあり、今にも目を開けて喋りだしそうで怖い。
「遺跡からの発掘品なんだけどな、デカいは重いはで買い手がつかねぇんだ! 兄さんどうだい!」
ガチャリと店主が人形を立たせると俺の腰ほどまで来る身長だ。
「サイズも重さも子供と変わらないんだよ。子供と違って飢えない動き回らない喋らないときた!」
「そう、だな」
店主がグイグイ来る。迫力に押されて逃げる機会を逃してしまった。
遺跡からの発掘品は珍しくて便利なものが多く高値で取引されることが常ではあるがまれにハズレがある。
これはそのハズレだろう。何に使うんだこれ。
奇人じゃあるまいしこんな実用的じゃない嗜好品を買うやつなんてこの町に来ないだろうに。
「兄さんちょいと耳貸しな」
「は?」
「この人形特殊な用途があってよ――してやると鼓動と体温が宿るんだ。珍しいだろ」
「……は? それ、何に使うんだ?」
流石発掘品、訳がわからないものがある。
「ま、お偉方が言うには死んだ子供の代わりに使ってたんじゃねーかっていう話だがな。目が開いてねえだろ。布団にでも寝かせておけば寝てるみてえだ。子供が死んじまった親が精神安定に使ってたんだろ」
「……代わりか」
「気になったかい? 何ならまけてやらないこともないぜ」
「いや――」
いらない、と言いかけてこれはエータの身代わりとして使えるのではないかと言う考えがよぎる。はっきりいって不気味でしかないが。
「気になる値段は1580マノだぜ」
「それは、高いな……」
ひくり。頬が引きつる。
高すぎる。所持金かき集めても全く足りない。そんな金額を持っていればこの町に1か月くらいは滞在できる。無理だ。
しかし発掘品は本当に高い。昔見た剣に比べれば安いが高い。高すぎだ。
悩みだして動きの止まった俺。それを買うつもりがあると見た店主が値下げしてきた。
「んーなら1490くらいでどうだい」
「いや、もう一声」
「いやいやもうこれ以上は無理ってもんよ。赤字になっちまう」
これは欲しいと思った時点で負けだ。
試してみたくとも金が無い。似たものは怪我を代わりに受けてくれる小さな人形なら見たことはあるがあれは使い捨てだ。
この人形を買うには金策が必要だ。
「その人形取っておいてくれないか? 金をどうにかしてくるから」
「あーいいけどよ。さっきいった金額以上に積まれちまったら無理かもしれねぇな」
「それはそうだ。その時は縁がなかったと諦めるさ」
諦めると言いつつも内心は焦りが募ってきている。
「ま、でもこんなのだぁれも買わねぇよ」
店主がぽろりと本音をもらした。
しかし奇特な人間がいないとも限らない。気が気ではない。早く何か金になるものを考えないといけない。
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