第24話 牽制
ラル達が教室を出た後、残された男たちは各々の想いを語る。・・・否、牽制をし合う。
「さて、サイファー王子。僕ははっきりさせておきたいです」
「いいですよ。リージェンさん」
「正直、ラルのことはどう思っていますか?」
リージェンの発言にグレンが少し身を乗り出す。
「好きですよ。まだ彼女に伝えていませんが、これからは『マジ』になって彼女の心を手に入れるつもりです」
「・・・そうですか。彼女に想いを伝えるなら、早めにした方がいいですよ」
「それは僕への宣戦布告ですか?」
両者の間に緊張が走る。ギンは我関せずと言った表情で爪をいじっている。
「いえ、アドバイスです」
リージェンの諦めたような表情から、何かを察したサイファー王子は彼の真意を聞いた。そして段々と敵意のあったサイファー王子の眼差しが同情に変化していく。
「リージェンさん・・・いえ、リージェン。何というか、すごく、分かる気がします」
「分かりますか?僕はもうそろそろ実力行使に出てもいいんじゃないかとさえ思っています」
リージェンがそういうや否やグレンが叫ぶ。
「っそれは駄目だ!」
「どうして?」
「お、俺もラルが好きだから・・・」
ぼそぼそとした声でグレンは呟く。
「じゃあ、リージェン、グレン、僕の三人はライバルであり同志でもある訳だ」
サイファー王子がギンを盗み見るが、ギンはもはや興味を失って校庭を見つめている。
「ギンは?誰か気になっている子はいないの?」
ギンと契約を結んでいるサイファー王子は彼と親しい。親しいが、その手の話題はしたことが無かった。
ギンは遠い目をして口を開く。
「いないよ。・・・いたとしても、俺やラルにとってそういう感情は自分を苦しめるだけだ。だから、いくらあんた達でもラルの心を無闇にかき乱すのは止めてもらいたいな」
「どういう意味だ?」
殺気だったグレンがギンに近づく。近づいたついでにギンが見つめていた方向を見ると、楽しそうに門をくぐっていくラルとクレアとカメリアの姿があった。
「そのままの意味だ。あいつは・・・というか俺たちは人を好きにならない」
グレン、リージェン、サイファー王子の方を振り向いてギンは悲しそうに告げた。
「それって・・・」
「あんたらがラルに告白しようが迫ろうが勝手だ。けど、あいつが少しでも葛藤したり拒絶したりしたらすぐに手を引け。間違っても[使役者]の立場を使って心を手に入れようとするなよ」
「「「当然」」」
三人は頷く。その姿を見てギンはほっとしたように息をつく。
先ほど言ったことは半分が本当で半分が嘘だ。ギンは、同じ[最高使徒]としてラルのことを少なからず気になっている。彼女と同じ部屋で語り合った時間は、人生で最高の幸せを感じていた。
(あーあ。俺も何にも縛られずに好きな相手に好きだと言えたら良かったのに。まぁ、競争率はとんでもないから良かったかな)
ふっと笑ってギンはもう一度校庭に視線をやった。彼女の後姿が見えた。
***
「今度はあの店に行きましょう!」
「あちらの店の方が良くなくて?」
「も、もう帰ろう・・・」
街に繰り出した三人は紙袋を抱えて手当たり次第に店に入った。
サイファー王子へのプレゼントから、泊りのための道具まで。日が沈みそうになるまでショッピングを楽しんでいた。
しかし、ラルはこんな長丁場の出かけに慣れていない。
「ちょ、ちょっと休憩する。私、そこのベンチで待ってるから・・・」
と言い残し、ぼろぼろになってベンチに座る。
(クレアとカメリアって凄いな。いろいろなお店を知っているし、顔なじみの雰囲気醸し出してた。そもそも、疲れを知らないの・・・?)
はぁ、と一人ベンチで一息ついていると、
「すみません」
と、フードを被った人が声をかけてきた。逆光で顔が見えないがシルエットからして知らない人だ。
「【神の左脚】、ですよね?」
「っ!?」
体が強張る。おそらく学園の生徒ではないのに、どうして一般人がその事を知っている。
「そんなに警戒しないでください。その反応だけで十分です」
では、と言いながらその影は・・・突如ラルの左脚に触れた。
「は!?」
左脚にバチっと魔法がかかり、ラルは混乱する。
(何!?痛い!)
思わずその手を振りほどこうと、もがく。真っ白いその手がラルの足に触れれば触れるほど、痛みとよく分からない焦燥に駆られて冷静さを失ってゆく。なかなか離れない手に奮闘するが、
「チッ」
フードは何かを察知したようでラルの足から手を離し、路地裏へ逃げていった。
―「君はここにいるべき人間じゃない。必ず、迎えに行きます」
不穏なその一言を残して。
***
「大丈夫か!?」「ラル!!」
二つの影がこちらにやってくる。これは安心できる影だ。ラルはほっとして呼吸を取り戻す。
グレンが心配そうな表情をして叫ぶ。
「何があった!?」
「いや、特に・・・何も。ただ不審者に声をかけられただけだよ」
心配させたくなくて思わず噓をついてしまった。
「ラル、無駄だよ。僕らは感覚を共有しているから。君に何かがあったことはすでに分かっている」
厳しい顔をしたリージェンがベンチに座る彼女を見下ろす。
「・・・私、二人と契約を解除した方が良いかもしれない」
(このまま契約を結んでいたら、絶対に二人を巻きこんじゃう。それは避けたい。それに、さっきの魔法は二人にとって危険すぎる。だって・・・)
「絶対に解除しないから」「何寝ぼけたこと言ってんだよ」
優しい二人はすぐに答えを出してくれる。その優しさに涙が出そうだ。今はまだその優しさに浸っていたい。
「ありがとう」
ラルは力なく笑った。遠くからクレアとカメリアがやってくる姿が見えたため、いつも通りに振る舞う。彼女たちがラルの違和感に気付いていたかは知らない。
***
寮に戻って一人きり。いつもは一日の振り返りをするが、今日は夕方の件で頭がいっぱいだった。
(あのフードは誰?どうして私に接触したの?「ここにいるべきではない」ってどういう意味?それよりも、あの魔法はどうやって知った?未遂に終わったけれど、あのまま二人が駆けつけてくれていなかったら三人ともどうなっていたか分からない。あんな魔法前例が無い。・・・だって)
「契約を強制的に解除する魔法が存在するなんて・・・」
やっぱり二人に迷惑は掛けられない。ラルは明日その旨を再び伝えようと決心して眠りについた。
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