第23話 大協力


あの騒動から数週間後、私たちは良い関係を築けていた。サイファー王子が女性を攻略する癖を直してくれたおかげで、まだ平穏な学園生活を送れている。


そしてある日、サイファー王子から生誕祭のお招きを受けた。王子である彼の生誕祭なんて相当豪華でおいしい料理に素敵な音楽が楽しめるのだろう。

正直、王宮にはいったことは無いしそんな縁も今後ないかもしれない。行ってみたいのだが立ち振る舞いに自信が無い。

それに、前回のパーティーで味わった孤独感はあまり味わいたくないと思った。クレアもグレンもリージェンも、その場ですぐに人に囲まれてしまう。非常に整った顔立ちで育ちの良い彼らと近づきたいと願う人は後を絶たないのだ。


「ねぇもちろん、ラルも行くよね?」

「貴方、サイファー王子から直々に招待を受けてまさか断るつもり?」

教室にいる両脇の華から催促を受ける。まさに華という例えは言い得て妙だ。この二人は可愛いし綺麗。クレアはふわふわとした可憐さを持っているし、カメリアは近寄りがたいほど美しい目鼻立ちをしている。対する私はというと、常に黒いストッキングで足を隠しているし上品さの欠片もない。

「私は遠慮しようかな・・・」

「あら、どうして?」

「私なんかが行ったらその場に馴染めなくて帰りたくなるから、かな。生誕祭って誕生日会みたいなものでしょう?そういうのって、仲のいい人だけが狭い空間に集まってわいわいするイメージだったから正直ノリが分からない・・・」

「ラルのいうお誕生会も面白そうね!」

今度開催しましょう、とクレアが手を叩く。

行きたい気持ちと行きたくない気持ちに苛まれ、がっくりうなだれていると後ろから声が聞こえた。


「・・・ラルさん来ないの?」

はっと後ろを振り返ると、驚いた表情のサイファー王子がすぐ近くに立っていた。というか、私の顔にその整った顔面を近づけないでほしい。

「ちょっと近いですって」

手でその顔を押しのける。クレアとカメリアならまだしも、他の令嬢に見られたらたまったもんじゃない。

「そうですよ、サイファー王子。ラルが嫌がってるじゃないですか。ねぇ?ラル、[こっちにおいで]」

(あ、リージェンめ。また意味不明の命令を使ったな)

内心ではリージェンへの恨み言を吐きながら、ラルの体は彼の方へ吸い込まれるように動いていく。そして、ぽすっとリージェンの腕の中に収まる。収まった瞬間、ラルはリージェンを突き放すようにして距離を取った。

「だぁから!そういうくだらないことで私を勝手に動かさないで!」

すると、今度は背中に何かが当たった。

(あぁ、もうなんなの!)

私の苛立ちは最高潮を迎える。ただ単にガールズトークをしていただけなのに、わらわらと面倒な人たちが集まってしまった。

おそらく背後に立つのはグレンだろう。リージェンの次は必ずグレンだと相場が決まっている。・・・むくむくと悪い心が芽生えた。

(よし、グレンには悪いけど鬱憤を晴らさせてもらうわよ)

肘に力を入れて、少し勢いをつけて引く。いわゆる肘鉄というやつだ。

「ふんっ・・・あれ」

両肘を引くが手ごたえが無い。


「・・・何してんだ」

そこに立っていたのはギンだった。右眼がちょっと光っているから、その眼で私の行動なんかお見通しだったのだろう。ちょっと恥ずかしいのでそれを悟られないよう誤魔化す。

「や、やっほー!ギン。久しぶりー」

「あぁ。ところでお前、今、二人と契約してるんだよな?体に異変は無いか?」

同じ立場に立つものとして私を気に掛けてくれているなんて優しい人だ。いつぞやのお菓子を交えた会話は、二人の親密度を結構上げてくれていたみたい。

「うん。今のところ問題無し」

笑ってブイサインを送る。私のサインを見て、それなら良かったとギンは目元を綻ばせた。完全に笑ってはいないようだったけれど、貴重なものを見ることができたような気がする。


「おーい、出してきたぞ・・・ってなんだ。みんな集まってるのか」

教室の扉を開けてグレンが入ってきた。数枚の紙束をヒラヒラ振りかざしながら、私たちの方へ歩いてくる。

「グレンさん、ありがとうございます」

と、その束をサイファ―王子が受け取る。私以外はみんな何か知っているようで、頭に疑問符を浮かべているのは私だけだ。

「え、何。皆?知らないの、私だけ?」

「あのね、さっきラルに生誕祭行かないの?って聞いたのだけれど、本当は決まってたのよね」

クスクスと楽しそうに笑いながらクレアが言う。

「何が?」

「サイファー王子のお祝いに行くことよ!ラルはちょっと嫌がってたけど」

「それに王宮で一夜を明かすのよ。庶民には一生に一度の出来事よ。サイファー王子に感謝することね。・・・まぁ、わたくしのお屋敷にならいつでも来てもよろしいわよ」

「その為の外泊許可を俺が取ってきた」

「えっえっ」

怒涛の事実に脳が受け入れを拒否している。

(半日の王宮でさえ無理だと思っていたのに、一日中!?無理無理。緊張でおかしくなるって)

少し考えさせてほしいと口を開こうとしたが、

「僕は今まで友人と誕生日を祝ったことが無いんです。パーティー形式ではなく、ラルさんの幼少期の祝い方でもお祝いして貰いたいです。僕の恋路のためにもお願いします」

とサイファー王子は手を握ってラルに懇願する。

(うん?「僕の恋路」ってことは、クレアかカメリアのどちらかってこと!?もしクレアだったら、感情の伴った良い婚約を結べる可能性がある!?)

それなら答えは一択だ。

「大協力しますよ!!」

ぐっと拳に力を入れ、クレアの方を向く。

「じゃあ、決まりね!そうと決まったら、一緒にお買い物に行って色々買いましょう」


ぐいぐいと思いのほか強い力で引かれるがまま、クレアについて教室を出る。カメリアも楽しそうに二人の後を追う。私は抵抗する間もなくそのまま街に駆り出されてしまった。

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