第21話 売り言葉に買い言葉
なんて言った?今の流れでオツキアイ?
・・・わかった。この人は、私の本心がサイファー王子に傾くまでやるつもりだ。オツキアイなんかしたら、今以上に当たりが強くなるに決まっている。
「えっと、無理です」
「ふふ、貴方ならそう言うと思っていました。じゃあ、僕と勝負しましょう。期間は1週間。その間、僕は貴方にアプローチするので、1週間後に好きか嫌いの答えを出してください。貴方が負けたらお付き合いを受け入れる。どうでしょう?」
サイファー王子はさも何でもないことのように提案をしてきた。まるで日常的に口にしている言葉のように。
カッチーン。頭で何かがキレる音がする。それに、高らかにゴングが鳴り響く音も。
(この人、完全に女の人で遊んでる)
本来ならば引き受ける訳ない試合だが、今回ばかりは目の前の男を負かしたい。今までそうやって何人の人を虜にして、捨ててきたのか。カメリアもおそらく被害者だ。
「・・・やってやりますよ」
告白まがいな行為による、さっきまでの罪悪感はとうに消えていた。
***
つまらない。僕の周りは恋や愛のようなもので形成されている。僕を囲む人は、そういうものを必ず持って近づいてくる。あぁ、でも「クレア・フィオリーゼ」は面白かったな。あの人は僕の地位にしか目が眩んでなかった。・・・それでも、彼女も同様に僕という人間を見てくれない。
こんな捻くれた考えになったのも理由がある。僕の体質だ。
僕は生まれついた時から、何かしら女性を惹きつけるものを持っているらしい。僕の瞳は、数多の女性を虜にする。・・・好かれたくない人にさえも。目が合うだけで相手は僕に特別な感情を抱き始める。こちらにその気がないとしても関係ない。
どうせ恋愛感情を向けられるならば楽しもう、と僕は僕を嫌っていそうな人から攻略していった。どうせ偽物の感情だ。
この体質を恨んで、自分なりに努力したこともある。なるべく目立たないように隠れたり、目くらましの呪文を自分にかけてみたり。それに、ギンという青年と契約を結んで眼の力を制御してみようともした。・・・全て徒労に終わったが。
(・・・なのに)
頑張ること自体を、さも正義のように振りかざしている彼女が非常に気に食わなかった。僕の感情はどうでもいいのか?親のためなら僕の心は二の次か?彼女がそういう意図で話している訳ではない事は分かっているのに怒りが抑えられない。じゃあ、僕にも本当の愛や恋を教えてくれよ。それも他人から与えられるものじゃなくて、自分から生み出される感情が欲しいんだ。
「偽善者が・・・」
その感情はぐるぐると渦まき、彼女への憎悪に変わった。
(絶対に振り向かせてやる)
それは甘酸っぱい欲望ではなく、復讐の野望だった。
***
サイファー王子との勝負を受け入れて早3日。ラルは人生最高潮にストレスフルな日常を送っていた。
サイファー王子の異常なアプローチはもちろん、あの時の告白現場に居合わせていたというグレンとリージェンの誤解を解くのに3日もかかっている。味方だと思っていたクレアは、「言わないほうが面白いかと思って」とにこやかに言った。その時私は初めてクレアに怒りを感じた。
「これで分かってくれた?私とサイファー王子は勝負中!」
「あっっそう。別にそんなにムキにならなくてもいいぜ。分かってるから」
言葉とは裏腹にグレンは拗ねたように突っ伏してそっぽを向いてしまう。
「ラルは、嘘なら告白する人なんだ。ふーん・・・。だから僕の言葉も響かないんだね」
「リージェンまで・・・」
こんな日々を3日も続けている。
さらに、
「ラルさん。放課後、街に行かない?美味しいケーキ屋さんがあるんだ」
悩みの種、筆頭が毎日こうやって誘いに来る。・・・女子生徒の羨望と嫉妬と愛憎ひしめく視線付きで。
「もう、助けて・・・」
ラルは半泣きでクレアに助けを求めた。
***
そして迎えた7日目。ラルは勝利を確信していた。この一週間、サイファー王子を好ましく思うどころか疎ましく感じていた。恋するなんて絶対にありえない。
当のサイファー王子はあまり焦る様子もなく、普段通りに構ってくる。それもそうか。私に負けても彼の戦歴に傷がつくだけでデメリットはないのだ。・・・あれ、私だけ損してない?
どこからともなく湧き上がってくる不公平感。もやもやしながら廊下を歩いていると、陰でひそひそと話す低い声が聞こえた。
「今日やっちまおうぜ」
「あぁ、あいつはいつもラルとかいう下町の女について回っているからそこを狙おう」
「絶対に気付かれるなよ。見つかったらやばいことになる」
(あぁ、これはサイファー王子を妬む人たちだ)
おそらく、四六時中可愛い女子生徒に囲まれている王子が羨ましい連中だろう。明らかに王子を襲うことを計画しているその発言は、さすがに見過ごせない。
ねぇ、と声をかけようとしたが、急に彼らが歩き出した。手には火の魔法を込めている。
彼らが向かうその先は・・・。
(サイファー王子!)
先ほどのは、まさに行動に移す直前の会話だったのか。まずい。
間の悪いことにサイファー王子は一人でを教室を出てきた。いや、サイファー王子が一人になるこの瞬間を彼らは狙っていたのだ。
無言で男たちはサイファー王子に近づく。後ろに隠した手には灼熱を宿して。
(間に合わない!)
声を出す前に、走り出していた。左脚が私の走力を底上げしてくれている。
―その後のことは、あまり覚えていない。気付いたら、私の左半身が酷く熱かった。
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