第17話 開始
何も解決策が出ないまま、決闘当日を迎えてしまった。
―この日のために、クレアとクレアのペアと放課後を犠牲にして訓練していた。しかし、正直クレアと[使徒]である彼女の息が合っていないように思った、というか・・・。
「ラルが熱心にアドバイスするほど、クレアのペアはやる気を無くしてるみたいだね」
「やっぱり、そう見えるよね・・・」
隣のリージェンがズバッと言い切った。
「どうしよう。時間ないのに」
・・・無情にも時間は過ぎ去って、焦りを抱えたまま当日を迎えるしかなかった。
空は快晴。文句なしの晴天だ。私たちの不安な灰色の心とは裏腹に。
だだっ広い校庭にギャラリーが多く集まっていた。
「クレア、とにかく一生懸命やるんだよ!」
「えぇ、頑張るわ」
緊張で顔面蒼白のクレアの手を握る。
「あら、逃げずに来たのね」
装飾が少ない身軽な服装に着替えたカメリアが、開口一番嫌味を投げる。
「ふん、クレアは負けないよ」
「あら、そうかしら?・・・そういえば、決闘の内容を決めていなかったわね。私が勝ったら、そうね。『金輪際サイファー王子、グレン様、リージェン様・・・。あとはそこの孤児にも近づかない』」
「わ、わたしが勝ったら、『今までのことをすべて謝ってもらう。そして、わたしに今後話しかけないで』・・・」
「貴方、負けたら孤独ね」
「・・・勝ちます」
そして、お互いの望みをかけた決闘が開始した。
どちらかの[使役者]が降参をするか、気絶するかで勝負が決まる。
カメリアの[使徒]は、眼鏡をかけた男性だった。試合が開始するや否や、眼鏡の彼は怪しげな魔法を展開する。その魔法から錬成された霧はまがまがしいオーラを放っていて、得体が知れなかった。
とにかく危険だ。けれど、範囲はそこまで広くない。
クレアは肉体派ではないから、彼女の[使徒]がクレアを後方に運んでくれれば大丈夫そうだ。状況判断に長けたクレアもそう判断したみたいで、前方に突っ走る[使徒]に命令を下す。
[戻って!]
・・・そのはずだった。
「何故・・・?」
霧に突っ込んでいったクレアの[使徒]は、命令が下される前に霧を吸い込んで昏倒した。
「何故、霧に向かって走るの・・・?」
クレアは異常を感知した。[使徒]がクレアを放棄したことだけが明らかだった。[使徒]の彼女は、始めから自分の味方ではなかったというのか。
「クレア!!!!」
呆然とするクレアに焦ったようなラルの声が届く。クレアは縋るようにラルを見つめる。どうしよう。わたし、ひとりじゃ勝てない。何か、策は・・・。
「わたくしの勝ちね」
―どこか悲しげなカメリアの声を最後にクレアの意識が途絶えた。
クレアが地面に伏し決着がついた。校庭はシンと静まり返っている。当事者のカメリアでさえも、無言でクレアを見ている。
「約束は守ってもらうわ」
その一言を残して、カメリアは去った。
決闘の効力は絶対らしく、ラルたちはクレアに近づけないように周囲から監視されていた。クレアを慰めにも行けず、不満を爆発させたラルは自室で大声を上げた。
「あーもう!どうしたらいいの!」
頭を抱えてバタバタと床を蹴っていると、水晶が光った。
「クレア!?・・・あ、違う」
「残念ながらクレアじゃない。リージェンだよ。今自分の部屋にいるよね?報告したいことがあるからそっちに行ってもいい?」
「相変わらず居場所はバレてるのね・・・。いいよ。カギは空けておく」
数分後、トントンと律儀に扉をノックされて神妙な面持ちをしたリージェンがやってきた。
「ラル、冷静に聞いてほしんだけど―」
リージェンから紡がれる真実に、ラルは衝撃を受ける
カメリアは自分に屈しそうな人がクレアのペアになるのを虎視眈々と狙っていたこと。クレアの〔使徒〕はカメリアから圧力を掛けられていたこと。事前に霧によって眠るように指示されていたこと。
。・・・だからか。何かがおかしいという感覚が、確信に変わった瞬間だった。
―話を聞いた翌日、私はグレンとBクラスに乗り込みカメリアに宣言した。
「カメリア!!あなたに決闘を申し込むわ!!日付は明日!」
「昨日のでまだ懲りてないのかしら・・・いいわよ。受けて立つわ」
カメリアが宣言した瞬間に、あの時と同じようにカメリアとグレンの水晶が輝いた。
「ぜっったいに勝つよ!!」「おう」
嵌められた友人のため、ラルとグレンはいつも以上に気合が入っていた。
一方、明日ラルとグレンがカメリアと決闘することを耳にしたクレアは酷く驚愕していた。接触を断たれているから直接は話を聞いていないけれど、勇敢な友人たちが自分の仇を討とうとしてくれているのを知ると、胸が熱くなった。
「ラルなら絶対に勝てる」
手をぐっと握り、ひとり呟く。
それは希望ではなく、確信だ。クレアは謎の自信を胸に眠りについた。
そして、決闘当日。あの日と同じように雲一つない快晴だ・・・が、あの日と同じ校庭ではなく体育館という屋内が決闘場だ。
身軽な服装になったカメリアが口を開く。
「クレアさんの仇を討とうとしているのよね。いいご友人だわ。・・・それで?貴方は何を望むの?」
「私たちが勝ったら、クレアとまた話せるようにして欲しい。それと・・・貴方と話がしたいかな」
「・・・私と?意味が分からないわ」
カメリアはラルの突然の発言に面食らっていたが、
「でも、わたくしが勝てば問題ないことね。わたくしの勝利の暁には、貴方にグレン様との契約を二度としないようにしていただこうかしらね」
とクスクス笑いながらカメリアが言った瞬間、隣のグレンが殺気立った。
「あ?」
「だって、貴方達お付き合いをなさっているのでしょう?心では通じていても、今後絶対に結ばれることのない契約の絆・・・なんて可哀想なの」
「え・・・。何を言ってるのかが分からない」
本当にわからない。ん?私とグレンにそんな噂が?どこをどう見たらそうなるの。だって、いつもご飯時になると連れまわされて、パシられて・・・。
「あら、図星?それはよかったわ。貴方にいい嫌がらせが出来る」
「いや、そういうことじゃ―」
「あぁ、全然いいぜ。俺たちが勝つからな」
私の言葉をグレンが手で遮る。
まだ言い足りない私を物理的に押さえつけたグレンは、高らかに決闘開始を宣言した。
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