第16話 決闘
「ぱーてぃー?」
聞きなれない単語に頭を傾げる。こちとらそんなお上品な育ちでないため、貴族らしいイベントに無知だ。きっと、ただ食べるだけでは絶対に目立つ催しなんだろう。
「こんな行事があるなんて知らなかったわ。クレア、行くわよね?楽しそう」
「えぇ・・・。私、そういう作法知らないよ」
「隅っこにいたら大丈夫よ」
楽しそうにしているクレアを見たら私も行く気になってきた。最近落ち込むことが多いクレアだったから、少しでも彼女の気晴らしになればいいかと一緒に参加を申し込んだ。
・・・しかしここで問題発生。
学校の催す「パーティー」とやらは、なんとドレスコードがあったのだ。ドレス・・・ドレス、と脳内で着たこともない服の単語がこだまする。
そんな窮地に立たされた私を救ったのは意外にもグレンであった。
「お前、ドレス持ってないのか?」
と、何気なく尋ねてきたため
「うん。着たこともない」
金銭面は孤児院からたんまりもらった小遣いがあるから何とかなる。・・・あまり無駄な出費は避けたかったけれど。
「じゃあ、俺が選んでやるよ」
ポリポリと頬を搔きながらされた提案に、私は素直に頷いた。そもそも、高級感漂う店に一人で入る度胸が無かった。
―そして迎えたパーティー当日。慣れない服に、慣れない立食形式。何もかもが初体験で、立っているのさえ不安を感じる。頭上のシャンデリアでさえ私を場違いだと言っているようだ。
流石のグレンとリージェンは慣れた様子で、女性に囲まれながら会話を楽しんでいる。一方のクレアは、嬉しそうに私の手を取って食事の並ぶ台に誘導してきた。
少しずつお皿に料理を盛り付けているクレアを見習って、私も目立たないように振る舞う。
「ん、これおいしい」
「でしょう?絶対ラルが好きだと思ったの」
いつもと雰囲気が違うクレアは、私を見て楽しそうに話す。そんなクレアの背後には、おそらく彼女に話しかけたいであろう青年たちが様子を伺っている姿が見える。
普段の雰囲気とは違って、淡いピンクのドレスに身を包んだ彼女はもうまさに妖精だ。漆黒の髪がドレスに映えている。そこに加わるお淑やかな笑顔。満点だ。
もしかしたら彼女に興味を示している男性の中にクレアの運命の相手がいるかもしれない、と私はそっと彼女から離れた。
「・・・とはいえ、どうしよう」
暇になってしまった。食事も一通り食べたし、広間で演奏される音楽の趣なんて分からないし。グレンもリージェンも話し相手には困ってなさそうだ。
とりあえず、部屋の端に移動しようかなと思っていた矢先―
「クレア・フィオリーゼ!貴方に決闘を申し込むわ!!」
良く響くあの声が、会場全体の空気を震わせた。その声を聞くや否や、私は人だかり目指して駆けだしていた。
「っ、何があったの?」
クレアに駆け寄って問う。クレアは放心状態でカメリアに怯えている様子だ。とても冷静に話せる姿ではない。
「クレアが俺らに色目をつかってるんだと」
冷めた目のグレンが答える。
「なんでそうなるの?!言いがかりじゃん!」
「あら、下民が口答えしないでくださる?」
「はぁ!?」
わなわなと手が震える。ここまで怒りの感情に支配されるのは初めてかもしれない。本当に血液が沸騰する感覚だ。
「そこのクレアさんがグレン様とリージェン様を使って王子に取り入ろうとしていたから、過ちを正して差し上げたのよ」
ふふん、と勝ち誇った顔でカメリアは続ける。
「教えて差し上げたのに、『この人たちはただの友人』だなんて。有り得ないわ」
「っクレア!決闘受けなよ!言われっぱなしでいいの?」
クレアの方を振り向いて叫ぶ。私は怒りに支配されて冷静さを失っていた。隣のリージェンが、「ちょっと待て」と言っていたのを無視してクレアに詰め寄る。
・・・この時、一度引き下がるべきだった。
―のちに私はこの選択を後悔することになる。
しかし、そんな私の姿に触発されたのかクレアが、
「・・・受けます」
と震える体で決闘を引き受けた。周囲でどよめきが起こる。私は全身全霊でクレアに協力するつもりだ。決闘の内容が何であれ、クレアを負かす気は無かった。
しかし、闘争心に燃えているラルは頭を抱えるリージェンの姿と勝利を確信したカメリアの姿が見えていなかった。
クレアが決闘の受け入れを宣言した瞬間、クレアとカメリアの水晶が強く光る。
「これで、決闘の受理がされたわね。決闘は3日後の15時。・・・そうね、校庭で行いましょう」
楽しみにしてるわ、とカメリアは金髪をなびかせて立ち去った。
パーティーが終わり、寮に戻っても先ほどの熱は収まらない。私の部屋で作戦会議だ。
「クレア!!!私、協力するからね!何があろうとも味方だよ!」
「ありがとう、ラル。わたしも勢いで受けちゃったけど決闘って何するのかな―」
「[使徒]と[使役者]の戦いだ」
グレンが口を挟む。いつもと違って不自然に落ち着いている。グレンもカメリアの態度に腹が立っているようだ。
「それなら、私とのタッグでカメリアに勝とうよ!クレアと私なら相性抜群だよ!」
「ええ、そうね。ラルとなら安心だわ」
私とクレアは嬉々として手を取り合う。絶対に負けたくない。そう意気込む私たちにリージェンからまさかの現実を叩きつけられた。
「無理なんだよ」
「・・・なんで?私とグレンの契約はグレンから解除してもらえばいいじゃない」
「違う。クレアさんが決闘を受け入れたタイミングがいけなかったんだ」
「それって・・・」
リージェンの話によると両者が決闘を受け入れて水晶が光った瞬間に、その時のペアで登録が受理されてしまうらしい。クレアは今現在、ランダムに選んだAクラスの人と仮契約をしている最中だった。
「うそでしょ・・・」
そんなの聞いてない。私じゃ力になれないんだ。
「だから、待てって言ったんだ・・・」
リージェンはお手上げの様子で頭を振る。
・・・どうやら、場とタイミングを見計らったカメリアの方が一枚上手だったらしい。
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