第11話 調査
ベッドで爆睡をかましたが、昨日のことを思い出し背筋が震えた。
何故、私の場所が分かったのだろう?女子寮に入る前に、ちょっと後ろを振り返ったが中間地点となる談話室には誰もいなかった。
朝食をとっている間、隣にはクレアがいた。彼女はいつも通り、いい匂いをさせて鈴のような音色で話す。
なんと、クレアはサイファー王子が気になっているらしい。
私はやんわりと応援しておいた。サイファー王子には婚約者がいない、との噂だったから競争率はとんでもない。・・・それに女性が好きそうではないし。
当たり障りない返答をしながら、手元のパンに視線を移す。あ、ジャム持ってくれば良かった。
「おはよう」
目の前にジャムが差し出され、声がかけられる。
ジャムを持つ手を辿って視線を動かすと、
今は警戒しているリージェンが立っていた。私はちゃんと笑えていただろうか。
「お早うございます。リージェン様、グレン様。わたし、クレア・フィオリーゼと申します」
固まった私をフォローするように、クレアが丁寧に挨拶を交わす。そうだった、この二人は一応身分の高い貴族様だ。
二人は私とクレアの目の前の席に座る。リージェンはクレアの前に座った。
始業時間を迎え、教室に集まる。今日は、好きなペアを組み自由に魔物を討伐するらしい。じゃあ私はクレアと組もうかな、と彼女に水晶を渡す。
「あれ、契約できない」
「水晶が反応しないね」
「・・・もしかして」
勘付いてはいたのだ。グレンから一回だけ強制的な命令をされたとき、いつもとは違う魔力を感じていた。でも、それ以降何もなかったから失念していた。
[こっち向け]
あ、まただ。今度ばかりは無視したいが、できない。
私は声のする方に顔を向けてしまう。
ニヤニヤした笑みを隠そうともしないグレンが、私から水晶を取り上げた。
「どうやら、俺とは仮じゃなくて本契約だったみたいだな」
「私がグレンを助けなければこんなことには・・・」
「なんだよ、そんなに嫌かよ」
「あ。じゃあさ、グレンから契約解除してよ。私からは無理みたいだし」
「やだね」
「なんで!」
クレアと組むのを楽しみにしていたのに。仮でも契約をすると、ある程度その人の感情とか人柄が伝わってくる。きっと、彼女は私を癒してくれる心の持ち主だ。
「他に組みたい奴がいたのか?」
「クレア」
あいつは無理だろ、とグレンは言う。なんでも、[使役者]の能力はその血統に大きく左右されるらしく、家系的にクレアはその血が弱い方だとか。
「過去を遡ると、[最高使徒]と組めんのは、王子か俺らしかいないな」
お、とグレンは何かに気付く。
「リージェンか?そういえば、前から言ってたよな。俺と違ってあいつのこと優しいとかなんとか」
なんともタイミングの悪い質問だ。今はリージェンのことは考えたくない。
「・・・グレンでいいや」
失礼だな、と喚く茶髪を無視して質問をする。
「ねぇ、リージェンってどんな人?」
「いい奴だな。お前も知ってると思うけど」
「まぁ、そうなんだけど、なんか変わった様子とかない?」
「うーん。あ、そういえば最近ずっと調べものしてるな。付き合いがわりぃ」
「へぇー」
めぼしい情報では無かったから、返事も適当に返す。
「じゃあ、とっておきを教えてやる」
「何?どうせ好きな食べ物とかでしょ」
「いいや、知りたいか?」
「早く教えて」
「あいつ素直そうに見えて、昔、屋敷を脱走したことあるんだぜ」
・・・やっぱりどうでもいい情報だった。
初めて本契約を結んで、[使徒]というものの不利益が身に染みて分かった。
使役、という単語はまさに的を得ている。拒否権が無いのだ。今日は一日、私が素直に言うことを聞くのをいいことに、グレンにこき使われていた。
やれ、昼飯を持ってこいだの、休み時間付き合え、だの。私の自由時間がない。
[使徒]の皆さんは、契約する相手を絶対にしっかり吟味した方がいい。
「あー!なんで私は[使徒]なの?私もグレンにやり返したい・・・!」
私は生まれて初めて、自分の出自を恨んだ。貴族だったら、私は[使役者]だったのに。
幼いころに私を捨てた、名も顔も知らぬ両親のことを恨めしく思った。
極力あいつの視界に入りたくなくて、放課後図書室で隠れていた。
人がいないのをいいことに、図書室の長机で突っ伏して恨み言を吐いていたが、足音が聞こえる。誰か来た。
本も手元にないためどうしていいか分からず、思わず寝たふりをしてみる。
コツコツと小気味よい足音が聞こえる。コツコツ、コツコツ。
あれ、だんだん近づいてない?!こっちは窓際で本棚が無い。
コツと、私の横で足音が、止まった。
「っ!」
突っ伏した顔を上げるタイミングを失った。誰だ。
グレンではないことは確か。あいつだったら、絶対叩くもん。
「寝てる?」
「!」
少し声を抑えた、あの人の声がした。さらり、と髪を梳かれる。
そのままじっと寝たふりを続ける。脳内で危険信号が鳴り響く。今起きたらまずい。
すると頭を撫でていた手が離れて、机上に出された私の水晶を持ち上げる。
「おやすみ」
と言い残し、足音が遠ざかっていく。ばたん、と扉の閉まる音が聞こえた。
助かった・・!
少し時間を空けてから、私は図書室を立ち去った。
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