第7話 王子

結局、私はサイファー王子と仮契約を結ぶことになった。

王子との仮契約が優先らしく、私は悩むだけ無駄だったことだけが分かった。


「ラルさん、よろしくね」


光のように眩しい笑顔で、彼はにこやかに手を差し伸べる。


「あ、はい。足を引っ張らないように頑張ります…」


他の女子生徒がどう思うか怖くて、差し出された彼の手に自分の水晶を握らせておいた。ふっ、と鼻で笑われたような気がするが、気にしない。


互いに仮契約を結ぶ。


「わぁ、さすが王子様。なんかこう、みなぎってくる力が違いますね!すごい」


「そうですか?ラルさんも、面白い力を持っているようですね」


「あ、ありがとうござい、ます」


王子様に褒められるなんて恐れ多い。思わず距離を取ってお礼を言う。


「なんでそんなに避けるんですか?」


「いや、これはサイファー王子が嫌なわけではなくて、周りの目が…」


「あぁ、僕の周りの女性ですか」


と、彼が言った途端、


「…!」


どす黒い感情が、契約している私の中に入ってきた。思わずサイファー王子を見ると、一瞬、感情のこもっていない冷めた目が見えた。


「どうかしました?」


そういう心配する彼はいつもの目に戻っている。


「あの、サイファー王子って…」


「僕がどうかしました?」


…これ以上はよそう。さっきの感情で分かった。彼はきっと女性が嫌いだ。


サイファー王子との仮契約も何事もなく終わった。若干、危ない面もあったけれど、[使徒]としての本能だろうか、彼の安全を一番に考えて行動していた。


「それにしても、さっきは危なかったですね。サイファー王子が丸焼きになるかと思いました」


「あの炎ですか、僕は氷魔法に長けているから大丈夫だったのに」


「どうしてでしょうね。気付いたら、飛び出してました」


えへへ、と腕を後ろにしながら笑っておく。


「…僕が気付かないとでも?」


突然、腕を取られた。


「っ!」


「ほら、火傷してる」


「…バレてました?」


テキパキと私の右腕を氷で冷やして包帯を巻く。さすが王子、応急処置もお手の物だ。魔法に治療に何でもできるじゃないか。


「僕を守ろうとしなくても大丈夫ですよ」


じっと、私の目を見ながら彼は少しだけ笑って言う。

でも、表情とは裏腹に目が冷たい。


そして、私にとって地獄がやってきた。サイファー王子の取り巻きではない。Aクラスにそんな心の狭い女子は、多分いない、と信じたい。


今日でラストのペアです、なんて抜かす担任の顔を引っぱたきたくなった。


「ちっ。お前、俺に近づくなよ、下民」


「はいはい。グレン様」


殴ってやりたい。投げるように渡された水晶にありったけの怨念を込めてやる。力んだせいで、ちょっと火傷が痛んだ。

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