第5話 神の左脚

まだホームルームは終わらない。先生は水晶を机上に出すよう指示した。


「とりあえず、明日の実習の仮ペアを決めます。そして、この学園の制度上…サイファー王子」


ここに、と彼は教壇の上に彼を呼ぶ。

 

「そして、リージェン様、グレン様も。ここに」


 三人が壇上に上がる。サイファー王子とリージェンは立ち姿にも気品がある。対するグレンは片方の足に体重を乗せ、だらしない姿勢で立っている。


クラスメイトの前でよくもそんな態度がとれるものだ、と冷めた目を向ける。が、担任の言葉に飛びのくことになる。


 「あとは、ラル、ギン。おいで」


 「っはい!」


 びっっくりした!!なぜ呼ばれた?え、まさか入学式で爆睡していたことが、ついにバレた?それなら、密告者はリージェンしかいない。いや、そんなまさか。


 一人で騒いでいた脳内が、ギンと呼ばれる生徒を見た途端、静まった。


 さっきの、オッドアイの青年だ。相変わらず表情の読めない顔だ。…相変わらず?

初めて会った癖に、どうも昔馴染みのように接してしまいそう。


 隣のクレアに心配そうな顔を向けられながら、席を立ち、ドギマギして皆と向かい合う。


 静まった教室を見渡し、厳かな雰囲気で先生は言った。


 「ここで、君たちがおそらく知らない話をしよう」


―エトナ神が分けた8つの分身の加護は現代まで、脈々と受け継がれている。その分身の通称は、【神の右手】【神の左手】【神の右脚】【神の左脚】【神の右眼】【神の左目】【神の右耳】【神の左耳】。そして、加護を受けたその者は[最高使徒]として王族、位の高い貴族にその身を捧げるのが定石。[使役者]となる王族貴族もまた、その身を国に捧げる。


[最高使徒]ではなくてもAクラスに所属している生徒は、ギルマ学園の事前調査によって素質を見出された者達だ。それぞれ強力な能力を持ち、稀有な守護霊をその身に宿らすことができる。[使役者]も同様に。


そして、と先生は一呼吸置いた。


「[使徒]は皆、孤児です。理由は分からない。そして、[使役者]は皆、歴史的に高名な者の血筋です。これは差別的な発言をしている訳ではないですよ。何故か、そのような括りになってしまう。詳しいことは、【聖職課】が解明してくれるでしょう。

…長くなりましたが、ここからが本題です。ラル、ギン。今まで知らなかったでしょうが、君たちは[最高使徒]です。ラルは、【神の左脚】。ギンは【神の右眼】。驚きましたか?」


「……」「…と、とても」


ギンは無言だ。私は驚きすぎて声が出ない。

神の、左脚…。そうか、だから、私の左足には謎の模様があったのか。孤児院の子たちのいたずら、それもタトゥー的なものかと思っていた。無意識に、黒のストッキングに手を伸ばす。


…待てよ。


『[最高使徒]は、王族、高貴な貴族にその身を捧げる』…。そして、壇上には、私とギンという二人と、サイファー王子とリージェン、そして…グレン。まさか。


「そのような理由で、この五人は優先してペアを組んでもらいますね。組み合わせはどうします?」


「あ、あの!私、リージェン様がいいです!」


これは即断だろう。彼以外は却下。やたら女子の視線を集めるサイファー王子も、やさぐれ反抗期のグレンもお断りだ。


「リージェン様、よろしいですか?」


「はい。問題ありません。よろしくね、ラル」

ほっとした。これで明日は安泰だ。


ギンという青年は、サイファー王子と組んだらしい。残ったグレンは、他の人とランダムに組んでいた。水晶に提示された色を照らし合わせながら、各々がペアの人と挨拶を交わす。


グレンの相手の方、ご愁傷さまです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る