第3話 エトナ神
隣のリージェンに何度も起こされながら、入学式は滞りなく終わった。私たちはその後、昼食を取るため食堂に向かう。グレンと落ち合う予定だというリージェンに別れを告げ、教えられた道を歩く。
リージェンとの会話や入学式で分かったことだが、この学校には4つの課があるらしい。
【契約課】、【医療課】、【魔道課】、【聖職課】だ。
契約課は、[使徒]と[使役者]の関係からなる課で、主にペアを組んで魔物退治や護衛を行う。
医療課は、その名の通り、人を治療することに長けた人物が集まる課だ。職業柄、私たちと同じチームを組むことが多いとか。
魔道課は、魔法を研究し様々な術式の開発、魔道具の開発など多岐にわたって活躍する。私たちの課とも密接な繋がりがあるらしい。
聖職課は、正直謎に包まれている。この国の守護神である、エトナ神について祈りを捧げたり、研究したりするようだ。
「聖職課だけ、謎のオカルト感…。でも、エトナ神は私たちの母だし知りたい気持ちも分からなくもない」
エトナ神についてはよく孤児院で聞かされていた。
―私たちの国、ガイアス王国を守る神。隣国のヴァロラント帝国の守護神とは恋仲だったとか。かつてガイアス王国に戦火が飛び、国が破滅しかけた際、エトナ神はその身を8つに分け、王族と各地域の要人の守護にあたらせた。8つの分身は分裂した時、当時の英雄たちに憑依した。彼らは神の力を借りて、国と人々を守ったという。そして言い伝えによると、憑依された英雄たちには皆一様に、特殊な紋が体の一部に刻まれていた―
聖職課はあまり表には出てこないみたいで、外での活動を主とする私たちとは関わりがないだろう。課の人たちも、ほどんどが教会のご子息みたいだし。
とりあえずは、お昼だ。
「…いや、さすが王立学校。格が違う」
食堂の人だかりを見ながら、一人つぶやく。
私の前にはハンバーグが置いてある。
ちなみに、チーズケーキのデザート付きだ。食堂のメニューは、それはそれは豊富だった。選ぶのに苦労したくらいだが、今はメニューについて言っているのではない。
人だかり、主に女子生徒の集まりを見て圧倒されていた。彼女たちが取り囲んでいるのは、サイファー王子。
サイファー・ガイアス王子だ。私たちの国を統べる王の息子。絹のようにサラサラした金髪を持ち、纏うオーラが違っていた。周りの男性貴族が霞んで見える。
そして、彼の一挙一動に悲鳴が起きる。微笑みだけで女子を虜にする王子は、いやな顔一つせず、食事を進めていた。あれは、多分オムライス。
彼とはおそらく今後の学園生活で関わることはないだろう。むしろ、関わり合いは出来るだけ避けたい。…話しただけで取り巻きの視線で殺されてしまいそう。
「いやー、おいしかった!」
満足のいく食事をとれて機嫌がいい。孤児院時代は、年下のダイが私の好物ばかり狙ってきたからゆっくり食べられた試しがない。
教室に向かいながら、廊下の外を眺めると芝生の上で話している人たちが見えた。なかなか味わえない、ゆったりとした貴重な時間に思いを馳せ、歩いていると、
「あ…」
「…ちっ」
茶髪の荒くれものに遭遇した。どうしよう、と悩んでいると彼が先に話し出した。
「どけ。アホ」
回避する間もなく、どんっと肩をぶつけられた。こんなに広い廊下なのに、わざわざぶつかってくるなんて。流石に、駄目だろう。
「待ちなよ。何か言いたいことがあるなら言えば?」
「あ?何もねぇよ。消えろ」
「親のこと持ち出したのは悪かったけど、その態度は無いでしょ」
「うるせぇ、俺の前に現れるな」
そう言い捨てて、グレンは廊下の奥に消えてしまった。取り付く島もない。
不愉快な思いはするものの、見るものすべてが敵のような、あの鋭い目つきは忘れられない。いくら私が彼の逆鱗に触れてしまったとしても、それでは説明がつかない目をしていた。どこか悲しそうにも見える。
これはあれだ。
「…反抗期だ」
彼との遭遇を経て、やっと教室にたどり着いた。私は【契約課】Aクラスの重厚な扉に手を置く。両開きの重い扉を開けたらついに、私の華やかな学園生活がスタートするのだ。
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