第2話 最悪の出会い
寮の談話室でリージェンと別れ、自分の割り当てられた部屋の扉を開ける。
そこには、孤児院時代では想像もつかないような豪華な一人部屋が用意されていた。
「一人用のベットに、ソファに、机まで!?さすがエリート校、スケールが違う…」
16年間生きてきた中で初めての光景に度肝を抜かれた。両手を伸ばして寝られる場所に、教材を目いっぱい広げられる机がある。しかも、どれも一流品だ。すべての家具に、よくわからない金の精巧な細工が施してある。
「あれは?」
よく見ると、ベットの脇の棚に手紙が置いてある。差出人は、
「園長先生!」
手紙の表に〈ルーカスより〉と先生らしい丁寧な字で書いてあった。
『ラルへ
新しい部屋はどうかな?きっと広くて私たちとの暮らしの差に驚いているだろう。でも、君はれっきとしたギルマ学園の生徒だ。堂々としていいんだよ。
君の持つ才能なら、きっとすぐに皆に認められる。君は他の子たちよりもずば抜けて良い出来だったからね。来年には君の一個下のダイが同じ課に入学するよ。こんなことは前代未聞だ。存分に知識を身に付けてほしい。
―これから送る君の学園生活に幸運がありますように
ルーカスより』
先生…!どこまでも素晴らしい人だ。若くて優しくて誰よりも私たちのことを考えてくれている。先生のためにも、ここでよい成果を出したい。
「でも、ダイだけはどうでもいいけど」
私にことごとく絡んできた一個年下の男だ。何かと因縁をつけてきて面倒だった記憶がある。
荷物をとりあえず部屋の端に寄せ、今後のスケジュールを確認する。
『10:00~ 入学式 (生徒は、9:45分までに着席)
12:00~ 食堂で昼食
14:00~ クラス毎にホームルーム』
とある。部屋の時計は9:30を指しているから、そろそろ行かないとまずい。
私服から、支給された制服に着替える。黒をベースに金の刺繡がいれてある美しい制服だ。しかし、制服に対してそこまでの規制はないらしく、スカートはそのままで、上はパーカーというカジュアルな装いにした。そして、いつも穿く黒のストッキングも忘れずに。
「急がなきゃ」
私は部屋を飛び出し、階段を下った。寮から外に出るには、談話室を必ず通らなくて はならない。足早に駆けていると、見慣れた頭が見つかった。
「リージェン!」
「やぁ、さっきぶり。ちょうど君を待ってたんだ。きっと入学式会場がわからないと思って。いらないお世話だった?」
「ううん、ありがとう。その心遣いだけで今日を乗り越えられるくらい嬉しい」
そうふざけていると、はんっ、と鼻で笑う声が聞こえた。リージェンの傍に、ガラの悪そうな茶髪の青年が立っている。
吊り目で攻撃的な顔つきをしている。優しい目のリージェンとは大違い。と、彼が声を発する。
「リージェン、こいつかぁ?地図も読めねぇ、下民ってのは」
「やめろよ、グレン。僕はそんな風に言ってない」
「同じことだろ、どうせ苗字も持っていない孤児院育ちだ」
「おい、そんな言い方はよせって!」
ガーン。リージェンの優しさに忘れかけていたけれど、改めて差別を目の当たりにするとなかなかショックだ。しかも、何、親がいるのがそんなに偉いの?私たちのこと何も知らないくせに。
だんだんイラついてきた。貴族が何だ。こいつに比べたら、人として私が勝っている。
「ねぇ、さっきから人のこと馬鹿にしているけど、あなたにはそんな資格があるの?孤児院育ちで何が悪いのよ。親がいてもそんな腐った性格のあなたに比べたら、孤児院のほうがまだマシ」
「なんだと…?」
男の空気が変わった。額に青筋を浮かべてこちらを睨みつけている。どうやら、触れてはいけない何かに触れてしまったみたいだ。明らかにさっきと様子が違う。
「てめぇこそ、何がわかるっていうんだよ?あぁ?」
「グレン、落ち着け。お前がふっかけたんだろ。それに、彼女もお前もお互いを何も知らないんだ」
「…知らねぇよ。俺は先に行ってる。お前なんか二度と会いたくないね。どうせ下等クラスだろ」
最後まで嫌味を吐き捨て、やさぐれ男は行ってしまった。
私とリージェンは歩きながら会話を続ける。
「ごめんね。僕の兄弟が失礼をしたみたいで」
「いや、リージェンが謝ることでは…って兄弟!?」
正反対にもほどがあるだろう。リージェンに優しさをおなかの中で持っていかれたのか。
「兄弟と言っても、血が繋がってないんだ。彼は養子だよ」
「あ…そうなんだ」
「…グレンの親は5年前に殺されたんだ」
「え」
こ、れは私が悪いかもしれない。知らなかったとはいえ、彼の古傷をえぐり、塩を塗ってしまったのだから。お互い様だとは思うが、後味が悪い。
「その後、グレンと仲の良かった僕の両親が彼とその財産を引き継いだんだ」
リージェンとグレンのフルネームは、それぞれ【リージェン・クレベル】【グレン・クレベル】というらしい。クレベル公爵家ってめちゃくちゃお坊ちゃんじゃないか。すごい人と知り合いになってしまったみたい。さすがエリート校だ。
「私、謝らないと」
「グレンが先に暴言を吐いたんだから、あいつから謝るべきだよ。僕が説得してみる」
そんな会話を続けているうちに、式場に着いた。
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