【使役者】に振り回される【使徒】の少女は、己の出自を恨む
Neko
第一章 出会い
第1話 道案内
――今日は、私、ラルの記念すべき第一日目。王立ギルマ学院に入学する日だ。
ギルマ学院といえば、そう、エリート学校で有名なあの学院。噂では、入学したら将来を約束されたも同然らしい。孤児院育ちの私がこの学院に通える日が来るなんて。
ここにはエリートと称される人々が集う。そしてつまり、エリートとは王族貴族だ。ガキンチョに囲まれて育った私が、礼儀正しいお貴族様に合わせられるだろうか…。
いや、無理。無理無理。こちとら野に放たれた野獣並に豪胆な生活を送ってきたのだ。「鬼ごっこ」と称された必死の徒競走や、「かくれんぼ」と称されたサバイバルゲームなどなど。
「今頃みんなどうしてるかなぁ」
孤児院のチビッ子が気がかりである。ごめんね、お姉ちゃん先に普通の生活するね。待ってるから。
いや、一人来てほしくない奴はいるにはいる。私に執拗に喧嘩を吹っ掛け、力比べをしてくる小僧だ。足の速さでは負けなしだけど、腕力では勝ち目はなかった。
「えーと、寮は…と」
手元の地図を見ながらだだっ広い正門の前で頭を傾げる。が、全然読めない。
こ、この学院、広すぎる。大きな建物がそこら中にあるし、逆に無駄に大きい運動場はあるし。少ないけれど、孤児院から持ってきた必要最低限の荷物を運びたいんだけどなぁ。
「仕方ない。聞くか」
聞くのは簡単だ。お金持ちの荷物を必死に運んでいる執事、メイドさんがわんさかいるから。荷馬車から荷物を降ろす作業を淡々とこなしている。それにしても貴族の方々の荷物多すぎるでしょ。…どうしよう、いじめられたりしないかな。
「お忙しい中、すみません。寮の場所をお尋ねしたいのですが…」
一番近くの執事らしい青年に聞いた。しかし、
「あー…。今、忙しいので後にしてくれますかね?見てわかりません?」
心が、折れた。
「あはぁ、見て分かります。忙しいですよねー。では!」
質問を返してくれなかったからではない。彼が私の姿を下から上まで見て、判断してきたのだ。おそらく、荷物も少ないし、同じ使用人だと思ったのだろう。
それなりの服を着てるつもりだけど、ここに来て思い知らされる。
うなだれながらとぼとぼ適当に歩いていると、不意に肩を叩かれた。
「あの!さっき、迷子になっていた人…ですよね?良ければ、僕が案内しましょうか?」
振り返ると、黒い短髪の優し気な笑みを称えた青年がいた。身なりのいい彼は、両手に荷物を抱えている。その優しさに涙が出そうだ。
「ありがとうございます。さっきの見られてましたか、ちょっと恥ずかしいですね」
「そんなことは絶対ないです。この学院に来た生徒はみんな平等で、みんなライバルですから。生まれなんて関係ないですよ。少なくとも、僕はそう思います」
「…泣きそう」
「え??」
「いや、親切にありがとうございます。それで…、【契約課】の寮ってどこか知ってますか?」
私の配属されたクラスだ。私はこのクラスに編成されることが前もって決まっていた。多分、というか確定で私が[使徒]と呼ばれる側の人間だから。
詳しいことはまだ理解していないけど、園長先生がそう言ってた。ちなみに、私と対になる人間は[使役者]だ。
「君、【契約課】なの?僕もなんだ!ちょうど良かった、案内するよ」
幸運な私は無事に、善の塊であるリージェンに送り届けてもらい、彼と寮の談話室で別れた。
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