第5話落ちぶれた者の夢

市営団地の八階の廊下を歩いていると、ある部屋に興味を感じ入っていった。

「807号」と書かれたこの部屋、入るとそこはボロボロになったギタリストやアーティストのポスターがたくさん張り付けてあった。

私は部屋でギターケースを枕に寝そべっている男を見つけた。男は幽霊で、私の存在に気づいていない。

「あーあ、今日もあんまりお客さん来なかったなあ・・・。」

男はタバコをしながらため息をついた、タバコも幻なのか全く煙たくなかった。






そして場面が変わった。

今度は男が上機嫌で、ギターを演奏している。

「何かいいことがあったのかな?」

そして男は演奏を止めて言った。

「ギタリストを目指して五年、ようやくおれにオファーが来た!ついにCDデビューするんだ!ここまでこれて、本当によかった。」

男はガッツポーズをすると、演奏を再び始めた。その様子は幸運に満ち溢れていたのだった。







また場面が変わった。

男は落ち込んだ様子で部屋へ入ると、突然発狂してギターを床に叩きつけた。

「うわあーーーっ!!よくも、よくも、よくも!!だましやがったなあーー!!うわあーーーっ!!」

男はショックでイカれている、一体男は何にだまされてしまったんだろう・・・。

発狂し終えた男は乾いた声で笑うと言った。

「脱サラして九年、やっとおれにも転機がきたというのに・・・。こんな仕打ちってありか?おれはどうして、こうも上手くいかないんだ・・・。」

そして男は泣き出した・・・。










後の調査でこの部屋に住んでいたのは、蒲田郁男がまたいくお

彼は今から十三年前、ギタリストの夢に目覚めて会社を退職。

それから夢を追う生活が始まったが、やはりそう簡単には売れずに、路上やライブハウスで歌う毎日・・・。

そんな時、レコード会社のスカウトマンという男が現れて、「金を出せばデビューできるようにする」と言われて、五十万円を支払った。

しかしそれからスカウトマンとは連絡がとれなくなり、後にそのスカウトマンが詐欺師だったと知った・・・。

そして男は、苦しくなる生活と孤独に耐えかねて自殺したようだ。





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