第3話暴走する理想

七階の廊下を歩いていたら、「705号」と書かれた部屋に目がとまった。

そしてドアを開けて部屋へはいると、鉛筆で何かを書いている音が聞こえた。

音のするほうへいくと、一人の少年がノートに何かを書き込んでいた。

「この子は、勉強中だな。内容は、算数のようだ。」

すると母親が部屋へと入ってきた、もちろん子どももその母親も幽霊である。

「勉強、がんばってるわね。いい、絶対にいい点をとるのよ。それが明るい未来への第一歩なんだから。」

「うん、わかったよ!」

子どもは元気に答えると、再び勉強を始めた。

「それにしても勉強熱心だな・・・。」

私の母親も勉強しろと私に言ったが、あの母親までのようなことは言わなかった。

子どもは黙々と、鉛筆を走らせ続けていた。

すると、机で勉強していた子どもが消えて、今度は怒鳴り声が聞こえた。

「どうして百点がとれないの!?なんで些細なミスをするのよ!!」

怒鳴り声のするほうへ行くと、さきほどの母親が子どもをしかりつけていた。

手に持っているのはあの子どものテスト、得点は九十五点、子どもの私なら驚く得点だ。

「ごめんなさい・・・、がんばったけど、百点とれなかった・・・。」

「がんばったじゃない!!結果が完璧じゃないとだめなの!!」

子どもは「ごめんなさい」と何度も謝りながら泣いている、しかし母親はその態度に逆上した。

「泣いてすむと思うな!メソメソ、うるさいんだよ!!」

なんと母親は子どもを突き飛ばした、床にドンと倒れた子どもはそこから動かなくなった。

母親は子どもを起こそうとしたが、やがて青い顔で発狂した。












知り合いに調査をしてもらったところ、これは今から九年前の七月に起きた事故だった。

子どもの名前は池上優斗いけがみゆうと、倒れた彼はその後病院内で意識を取り戻し、今は高校生になっている。

しかし優斗の母親・池上安子いけがみやすこは、あの時優斗が死んでしまったと勘違いし、自分が優斗を殺したことを苦に自殺してしまった・・・。

あの頃、安子は優斗を東大に入れようと燃えていたらしく、優斗に日々勉強を強要して、学習塾にも行かせていた。

そしてあの日、理想が暴走するあまり死の道へと進んでしまったのだった。



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