第一章 亀が愛した水底の宝石

1(挿絵)

「夢はいつだって心地よく、そこは母の胎内たいないのように君を優しく包み込んでくれる。

 うらららかで暖かな日差しが降り注ぐ夢の中は、摂氏せっし三十七度の快適で過ごしやすい揺りかごのようだ。


 どんな布団よりも気持ちよく、どんな暖房よりも丁度いい”そこ”は、二度寝と言わず三度寝だって出来るほどに心地が良い寝床だろう。


 ────けれど、どれだけ心地よくとも、夢はいずれは覚めるものだ。


 夢の中に永遠に住む事など、出来るはずもない。

 幸福な夢見心地ゆめみごこちは朝日と共に終わりを告げ、夜の帳が太陽にめくられるのと共に、彼方へと去り行くものなのだから。


 やがて君を揺り起こす目覚めは、”夢”と言う名の羊水ようすいから君を放り出して、”眠り”と言うへその緒を切ってしまうだろう。


 そうして今日という日に新しく生まれた君は、目を覚ますとまた、新しい一日を歩み始めるのだ。


 けれども現実は真冬の外気のように冷たく、その北風は肌を刺すように厳しい。


 ────あの暖かな夢に帰りたい。


 そう思う事もあるだろう。

 けれどその夢はもう、どこにもないのだ。


 もう一度眠りについた所で、次に見る夢は、君が先ほどまで見ていた夢ではない。


 ならば、夢の国ネヴァーランドから放り出された子供は、一体全体、どこに行けば良いのだろうか?


 これは、ながい、ながい夢から目を覚ました、一人の少年の物語────」



 亀が愛した水底の宝石 -Precious sapphire on the seabed-



 挿絵(章扉):https://kakuyomu.jp/users/nekomiti/news/16816700429038984290



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