第十四話 進級試験
ダンクとの決闘
翌日、教室で僕はさっそくダンクに声をかけた。教室はゴリダムが家に帰ってしまったという噂話で少々ザワついていた。
「ダンク、僕らと放課後一緒に勉強しないか?」
「……竜議員の息子か。なんだよ急に。」
ダンクはこちらをチラッと見てブスッと応えた。心なしか元気が無いようにも見える。こうも取り付く島も無いと困るな……。無理矢理勉強をやらせてもしょうがないし。
「勉強はみんなでやった方が捗るぞ。成績良くないんだろ?」
僕がそう言うと、ダンクは驚いた顔で僕を見てから言った。
「そうか、お前、ゴリダムから聞いたんだな?」
ダンクが僕を睨みつける。なんでこんな時だけ勘が良いんだよ……。嘘をついてもしょうがないので、僕は正直に答えた。
「……そうだよ。ゴリダムはダンクのことを心配していたよ。僕はゴリダムの力になりたい。それはダンクだってそうだろ? ゴリダムのために勉強しようよ。」
「ふざけるなよ。お前のお情けなんてまっぴらごめんだ。」
「ふざけてなんかない。ゴリダムはダンクに辛く当たられたと落ち込んでたんだ。ダンクだってゴリダムのこと大切に思ってるんじゃないのか? ちゃんと自分の気持ちに素直になって、仲直りするんだ。」
ダンクが僕に向かってノートを投げつけて怒鳴った。
「お前に俺とゴリダムの何がわかる! これは俺に対する侮辱だぞ! ……決闘だ! 放課後! 広場で決闘だぞ! 逃げるなよ!」
決闘? 何を言ってるんだ、こいつは。ダンクのことを少しでも理解できたと思った僕が間違っていたのか? ……いや、待てよ?
「決闘か……。もしその決闘で僕が勝ったらダンクは僕の言うことを聞くと誓えるか?」
「ああ、もしもお前が俺に勝ったなら、勉強でもなんでもしてやる!」
「わかった。決闘を受けてやる。」
僕が魔法でダンクに負けるわけがない。まったくなんて頑固な奴なんだ。ゴリダムが手を焼くのもわかる。
「何やってるの、アスラ?」
「ファー。ゴリダムにダンクの友達になってくれって頼まれたんだよ。」
「それで決闘なの?」
「……よくわからないけど、そうなった。」
ファーはダンクのことを嫌っているので、ダンクの勉強を手伝うという僕の提案は嫌がるかもしれないと心配していたけれど、意外にもファーは反対はしなかった。
「別に、ダンクが私の勉強の邪魔をしなければ構わないけど。」
なんとなくだけどファーは、自分はダンクと勉強することにはならないだろうと思ってる気がする。……僕も可能性が低くなっている気がしてきていたが、僕にはゴリダムとの約束がある。決闘で勝てば、ダンクに言うことを聞かせることができる。
僕が逃げないようにと思ってるのか授業中もずっと僕を睨んでくるダンクの視線に晒されながら、僕は放課後を待った。
「これは! この魔法学校の伝統に則った決闘方法だ!」
放課後の広場で、ダンクが僕に向かって高らかに宣言をした。
その決闘方法とは、学校の中庭に咲いているバラ園のバラを体中につけ、バラの花を全て散らされた方が負けというものらしい。
ダンクが、自分でバラ園から持ってきた大量のバラを体に付け始める。体のバラが残っている限り負けではないので、多くバラを付けた方が有利なのだ。ちなみに中庭のバラ園は先代校長の趣味で作られた魔法のバラ園で年中勝手に咲き誇っており、多少花を取ってもすぐに新しい花が咲くようになっている。
僕もファーに手伝ってもらって体にバラの花を付けていたが、なぜかファーはずっと笑っていた。
「ファー、これ変じゃない? 本当にこれが伝統的な決闘方法なの?」
僕はファーに聞いた。ファーは僕の頭の上にもバラの花を髪飾りのように乗せている。
「そうね、そのはずよ。」
「本当に? でも、さっきからファーは笑ってばかりじゃないか。」
「アスラ、バラの花がよく似合ってるわ。でもね、この学校が共学になって十年でしょ? その前は何十年もずっと女子校だったの。いったい、いつからの伝統なのかしらね?」
ファーがイタズラっぽく僕の顔を覗き込むようにして言った。僕はファーの言った意味が理解できて顔が赤くなった。女子が考えた女子のための決闘方法!?
「ファー! わかってたなら教えてよ!」
「ふふふ、アスラ! 可愛いわよ!」
いつの間にか、広場は大勢のギャラリーに囲まれていた。
ダンクのバカヤロウ! それならさっさと終わらせてやる!
恥ずかしさで真っ赤な顔をしている僕とは対照的に、ダンクは覚悟を決めたという風な顔で広場の中心まで進み出た。大勢の野次馬が輪になって見守るなか、二人のバラまみれになった男たちが杖を構えて対峙する……。
先手必勝! 僕はダンクよりも先に風の魔法を吹きかけた! ダンクに付いてる花を全部吹き飛ばせば終わりだ!
しかし僕がダンクに向けた風はダンクの髪をバサバサと揺らしたが、肩の花を数個飛ばしただけだった。ダンクがしっかりと服にバラを付けていたから外れなかったのだ。難しいな、これ!
今度はダンクが僕に杖を向けて魔法を使う。ボアっと出た炎が僕に向かってきた。花ごと僕を燃やす気か、ダンク!
炎の魔法を使う相手に風の魔法では相性が悪いので、僕は水の魔法に切り替える。水鉄砲のように放射した水がダンクの体に当たり、またいくつかの花を飛ばした。しかし、こんなことじゃ、いつまで経っても終わらないぞ……。
「お前! いつも俺のことを下に見てるだろ!」
ダンクが魔法で作り出した炎の剣で僕に斬りかかってくる。僕は杖で剣を受ける。
「下に見てなんかいない! 僕はダンクのことを何とも思ってない!」
「それが見下してるって言うんだ!」
なんだよ、変な突っかかり方しやがって! そっちが剣なら僕だって!
僕は水の魔法を変化させて水の剣を作り出した。未完成でも僕だってステラと同じガラストラスの剣を使えるんだ! 見せてやる!
炎の剣と水の剣が交わるたびに、ジュッ、ジュッと水が蒸発する音がする。
「アスラー! 負けるなー!」
レオの声援が聞こえた。みんなも見に来ているのか。
もう僕とダンクは魔法ではなく懸命に剣でお互いのバラの花を狙って斬りあっていた。
「ファー。アスラのあれは何? じゃれてるの?」
「あ、ステラ。ううん、決闘なのよ。バラを散らされた方が負けなの。」
「はぁ……、低レベル……。ちょっと私が終わらせてくるよ。」
ん? 離れたところでステラの声が聞こえたと思ったら、瞬きの間に僕の目の前にステラが閃光のように現れて、僕の体のバラを全て剣で突き、落とした。おおお、という今日一番の歓声が上がる。
「そっちもね。」
ステラはそのまま流れるようにダンクの方を向き、さっとダンクとすれ違ったかと思うと、次の瞬間にはダンクのバラが全て宙を舞った。
歓声と拍手が巻き起こる中で、僕とダンクは呆然としていた。ステラだけが舞い散る花びらの中で観衆に向けて笑顔で手を振っていた。
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