ステラの考えていること
アスラとステラの双子は去年まで実家の同じ部屋で寝起きし、午前には二人そろって母ティアラから剣術の手ほどきを受け、午後は同じ机に向かい家庭教師のカミエラの授業を受けるという生活をしていた。いつも二人は一緒だった。そのため、魔法学校に入学して寮に入ることになり離ればなれになっても、定期的に会いお互いの近況を伝え合うという習慣は、双子のどちらが言い出したでもなく当然のように始められた。
相手のことは自分が知っているべき。自分のことは相手にも伝えるべき。自分の隣にいる者は、いつだって双子の片割れであると疑いようがない。
しかし、秋の魔法大会の後、アスラにはファーという恋人が出来た。
アスラの興味は完全にステラではなくファーに向いてしまったのだ。
「それ、ファーに言ったらさ、ファーは僕に……。」
「アスラ。」
「あ……、ごめん。お爺様の話だっけ?」
「そう。春は私たちの誕生日があるでしょ。お爺様が絶対に帰ってこいって。そうしなければ退学させるぞって言ってたよ。」
「マジで?」
昼の時間が終わって人が居なくなった大食堂で向かい合わせに座って、ステラはアスラと話している間も、アスラの様子を注意深く観察していた。アスラの表情も、話し方も、益々似てきている。やはりアスラはそうなのだ。しかし……。
「アスラ。夢の中で洋子に会ったでしょ?」
「……。」
アスラは何も聞こえていないという顔をしている。まだダメなのか。ステラはため息をついて背もたれに寄りかかった。
アスラはまだ完全に前世の記憶を取り戻していない。一番重要なはずの、洋子の記憶を取り戻していない……。
この世界の人間は、転生や転生に関係する情報を見聞きしても認識することができない。五歳で前世の記憶が蘇り、自分が転生者だと自覚したステラはずっとそのことを思い知らされてきた。転生に関する話をこの世界の人間にしても、こちらが何も言っていないかのような反応をされてしまう。
今まで他の転生者と話したことがなかったため、『前世の記憶を思い出している途中の転生者』がどのような状態なのか、ステラは分かっていなかった。転生者として前世の記憶を取り戻しているアスラを見て初めて分かった。徐々に、思い出した記憶と共に、それを認識していくのだ。アスラは、まだ自分の前世の家族や身近にいた洋子のこと、そして前世の自分がなぜ死んだのかを思い出していなかった。
だから、それらに関する記憶についてステラがいくら呼びかけても、今のアスラは認識できない……。
「三学期は短いよね。進級試験が終わったらあっという間に春休みか。」
「試験、どんな内容かアスラは聞いた?」
「うん。筆記と実技の両方があるって。筆記は余裕だけどね。実技はどんな内容になるのかは毎年違うみたいだ。」
「あぁ、騎士学科もそんな感じみたい。」
まぁ、進級できないことは無いでしょとアスラは言った。
そのままアスラはこの間の決闘の真似事の顛末と、週末の話と、春休みにもう一度ファーを誘ってみたいと話した。
ステラは今回は落ち着いて、やってみたらいいじゃないと答えた。ファーの事情は把握した。ファーの答えはわかっているから問題無い。
しかし、アスラはすぐにファーの話題になってしまうんだなとステラは思ってガッカリした。
アスラならファーに夢中になるのはわかる。ファーはカミエラ先生に似ている。カミエラ先生はアスラの初恋の相手だった。しかし、アスラの前世の記憶が完全に戻りさえすれば、アスラが選ぶのはファーではなく洋子のはずだ。
はぁ……。アスラ、私はいつまで待てばいいの?
ステラが自分の前世である洋子の死まで思い出すことができたのは十二歳の時だ。前世の記憶が蘇り始めてから実に七年も後のことだった。
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