一転してピンチ

 さっきまで魔法学校の校舎横にいたはずの僕の周囲には今、木々しかない。


「ここは……。」

「アスラ、これはいったい?」

「……ステラも一緒か。これはたぶん、僕がレオと一緒にあいつの前に飛ばされたのと同じ魔法だ。」

「それって……。」


「ハハハハハ! ようこそいらっしゃいましタ!! 今度はお前が招待客だぜ、防御魔法のガキ!」


 やはり、あの時の針使いの男だ。僕とステラは魔法で連れ去られたのだ。


「今度は邪魔が入らないようにしてるからな! 助けは来ねーぜ!?」


 本当だろうか? もしも本当に誰も助けに来られないなら非常にまずい。今の僕は自動防御魔法は既に発動しているが、こいつの針からステラを守りながら反撃する方法がない。

 針使いの男が手を上げる。あれは針の魔法の発動の合図だ。僕はステラの前に立ってステラを庇う。ガガガと針が僕の自動防御魔法の板に突き刺さる。


「そうそう。それだよ、それ!」


 針使いの男の針が勢いを増す。僕は自分が緊張しているのがわかった。魔法恐怖症を克服したとはいえ、やはりこの攻撃には恐怖を覚えないわけがなかった。しかし前回と同様、針は僕たちのところには届かないと僕は確信できている。


「さあさあ! 魔法比べと行こうぜ!」


 マスクに隠されていてもわかる針使いの男の気持ち悪くニヤけている顔を、僕は睨み返した。以前の僕とは違うぞ!


「アスラ、あいつなのね? アスラに心の傷を負わせた……。」

「ステラは僕の後ろにいて。絶対に守るから!」

「いいえ、私を誰だと思ってるの? これくらいの攻撃、私には通用しない。」

「ステラ!!」


 そう言うとステラは僕の自動防御魔法の影から飛び出し、針使いの男に向かっていく! ダメだ! いくらステラでも無謀だ!


「な、なんだお前!? なんで俺の針が当たらねーんだ!?」


 僕はその光景が信じられなかった。ステラになぜか針の魔法が当たらない! ステラが避けているわけでもなく剣で弾いてるわけでもない。それなのにステラには一本も当たらない!


「……これが私のスキル『悪魔の手』。これは運命を操作するスキル。私に当てようとすればするほど、私には当たらない!」


 ステラが奥義の構えを見せる。まさか……ステラ、本気で!?


「こんなやつ、殺してしまっても構わない!」

「ステラ! ダメだ!」


 しかし僕の制止も空しく、ステラの剣は針使いの男の首を斬り飛ばした! 我が家に伝わるガラストラスの剣は必殺の剣だ。当然、本気でやれば相手を殺すことになるのだ……。


「ステラ、なんてこと……。」


 僕は男の死体の前に立つステラに近づいていった。男の頭は遠く向こうの方に転がっている。


「アスラ! 来ないで! なんかこいつおかしい!!」

「え!?」


 ステラが慌てて自分の首を庇うように腕を構える。その体勢のまま、ステラの体が宙に浮かび上がった。何が起きてるんだ!?


「おいおい、ひでーじゃねーかよ。いきなり首飛ばすか? ふつー?」


 ステラに殺されたはずの針使いの男の声が聞こえる。僕は男の頭の方を見た。しかし男の頭は大きく口を開いたままでこの頭が喋っているようには見えない。


「そうそう。そっちじゃねーよ。」


 いつの間にか、宙から逃れようと足をバタつかせているステラの前で、首の無い針使いの男の体が立ち上がっている。どういうことだ? あいつ、首が無いのに死んでないのか? ステラは苦しそうに藻掻いていて声は出せないようだ。


「ステラを離せ!」


 僕が針使いの男に向けて叫ぶと、男は首が無いまま返事をした。


「いやいや、こっちの嬢ちゃんもお前と同じで面白い魔法を使うみてーじゃねえか。針が命中しないなんて、この距離でもそうなのか、試してみてーよな?」

「やめろ! お前、何なんだよ!?」

「俺? 俺は……異世界解放同盟。この狂った世界の救世主だぜ。」

「何を言ってるんだお前!」

「……お前らの親は憑依者なんだってなあ? それなら残念だが、お前らも解放の対象なんだよなあ。」

「はあ!?」

「殺していいってことだよ!!」

「やめろ!!」


 あの針が当たらなかった状況がステラの転生スキルだとしても、僕のスキルと同じで限界があるはずだ! 僕はステラに自動防御魔法をかけるために走った! 間に合うか!? 


 ……間に合わない!!


 僕は必死で手を伸ばした。手を! 届かない! ステラ!!


 針使いの男の手が上がる。その光景はスローモーションみたいだ。僕の右手の先に魔法陣を描くあの手が伸びる。なんだよ、お前の手がステラに届いたって、何ができるっていうんだ! お前は魔法陣を描くことしかできない。ステラに触れることも、針使いの男を殴り飛ばすこともできない。なんなんだ、このスキルは。肝心な時に役に立たないじゃないか! ステラを守れないなら、何が『神の手』なんだよ!!


「ステラー!」


 僕は左手も伸ばした。ここから届くはずはないと分かっている。でも僕がステラを守らなきゃ!


 その時、僕の左手から大きな『神の手』が伸びていった。もう一本の手!? これは!?

 もう一本の神の手がステラを掴むのと、針使いの針がステラを襲うのはほぼ同時だった。神の手がステラを掴んでそのまま僕の方に引き寄せる。


「ステラ! 大丈夫!?」

「アスラ、私……。」


 ステラの体には傷一つ付いていなかった。針使いの針は神の手の中で止まっていた。僕のスキルが魔法を止めたんだ……! これは『神の手レベル2』!! この世界の魔法に干渉する力!

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