第十話 新たな力
神の手レベル2
「お前こそ、いったい何なんだよ!? その嬢ちゃんを掴んでいた俺の魔法が無効化されたぞ!?」
針使いの男の体が僕に向かって叫ぶ。
この土壇場で僕の転生スキルがレベルアップしたんだ。新しい効果は魔法の無効化!
あの男……、あの体は本物じゃない。魔法で操っているんだ。では本体はどこにいるんだ!? 僕は神の手で男の体に触れた。男の体にかかっていた魔法が無効化されて、男の体がその場に糸が切れたように倒れる。どこかに隠れているのか?
僕は魔法の無効化効果がある手を使って周囲をさらって確認してみたが、僕の新しいスキルが届く範囲には本体はいないみたいだ。
男の体にかかっていた魔法が消えた後は静寂に包まれている。逃げたのか? いや、そんな奴ではないはずだ。
それなら焙り出してやる。倒れたステラを抱きかかえたまま、僕は二本の神の手を使って魔法陣を作った。遠くまで飛べる小型の攻撃魔法と自動追尾魔法だ。これで怪しい奴が隠れていても魔法が当たるはず。神の手が二本になったことで魔法陣を作るスキルの発動も速くなった気がする。
しかし僕の追尾魔法は対象を見つけることができずに周囲を旋回するように飛んだ後に消えた。まさか本当にここにはいないということなのか? 僕は緊張が途切れそうになるのを必死で堪えた。
「ステラ、立てる?」
「うん。」
「ここにいるのは危ない。魔法学校に戻ろう。」
この森がどこなのかはわからないが、僕のスキルで魔法学校の魔法空間に戻るための魔法陣は作れるはずだ。僕にはあいつがどこかに隠れていて機会を窺っているという予感が消えなかった。ステラに周囲を警戒してもらいながら僕は魔法学校に戻るための魔法陣を作る。
……どこからともなく声が聞こえる。
「ちっ、面倒くせえなあ……。ポポスも失敗しやがって。」
「どこだ! どこにいる!?」
僕は声の主を探した。しかし、どこにも見当たらない。追尾魔法を打っても見つけることができない。
「おいおい。ここだよ。お前にも俺が見えないか? って言っても俺もお前に触れることはできないがなあ。魔法が無効化されるんじゃ、もう打つ手がねーぜ。……白けたなあ、まったく。」
「隠れてないで出てこい!」
「隠れてるわけじゃねーよ。俺はゴーストの魔女だ。ゴーストって魔物知ってるか? その力を身につけてるのさ。だから、お前らは俺を見ることも俺に触れることもできねー。俺もこの世界の物に触れることができねーんだけどな!」
「なんでこんなことをしたんだよ!」
「それは言ったろ。俺は異世界解放同盟。憑依者のいない世界を取り戻す。この世界の救世主さ。」
「そんなことして何の意味があるんだよ!」
「意味はあるんだがなあ……。そうだ、お前らだったら特別に仲間に入れてやってもいいぜ。この時代の世界に生まれたこの世界の人間で親が憑依者なんて、被害者みたいなもんだ。そういう考えの奴もいる。」
憑依者のいない世界だって? 憑依者は憑依術という魔法で別の世界から魂だけこの世界に連れてこられた人間たちだ。彼らのおかげでこの世界の技術や文化は発展してきた。僕の父のコウタも、ドラゴンの魔女のリョウも憑依者だ。憑依者はこの世界に無くてはならない存在なのだ。その意味がわかっているのか?
男の話を聞いていたステラが叫ぶ!
「ふざけないで!」
当然だ。どこにいるかわからない相手に向けて僕も力いっぱい叫んだ。
「お前の仲間なんてお断りだ! お前は絶対に捕まえてやる!」
「ハハハハハハ! だからそれは出来ねーんだって。」
あいつのふざけた笑い声が周囲にこだまする。
とにかくここにいたらマズい。僕は魔法陣で魔法学校に繋がる魔法の扉を作った。できるだけ校長先生の近くに発現することをイメージしながら。
……警戒しつつ扉を開ける。
「校長先生!」
「アスラくん、ステラくん! 無事かい!?」
ビンゴ! ばっちり校長先生のところに扉を開けたみたいだ。校長先生はポポス先生を縄で縛り上げて、魔法警察に引き渡しているところだった。魔法警察の女性警官がステラに駆け寄って介抱しようとしてくれた。あいつがこの状況で僕らを追ってくるということはないと思うが、早くあいつのことを校長先生に伝えなければ。
「校長先生! あの針の魔法を使う男は体を操られているだけで本体はゴーストの魔女です!」
「ゴーストだって? 物理攻撃の効かない魔物だよ。でも正体がわかっているなら対策は取れるよ。」
校長先生が杖を振った。周囲の空気が変わったような気がした。
「やはり、ゴーストはアスラくんたちを追って来てはいないようだね。ゴーストは存在できる条件に制限がある。もうこの魔法学校の敷地内には入ってこれないだろう。」
「よかった。でも逃げられてしまいました。」
ステラの剣技大会だけではなく、僕らの魔法大会まで滅茶苦茶にした相手だ。人を殺すことを何とも思っていない。僕はあいつを許せなかったが、残念ながら僕にはゴーストと対峙する準備が出来ていなかった。逃げ帰ることしかできなかった。
魔法警察のロック警部が僕に声をかけてくれた。
「いや、それだけわかれば十分だ。これからは魔法警察に任せてくれたまえ。」
「はい、絶対に捕まえてください。」
「アスラ! ステラ!」
僕らを呼ぶ声がした。リョウとファーとミネさんだ。
「ファー! 大丈夫だった?」
「それは私が聞きたいことよ。アスラは怪我はない?」
「僕は大丈夫だよ。ステラは今、手当を受けている。」
「よかった。」
「ファー。リョウも。あの蛇に勝てたんだね。」
リョウはミネさんの回復魔法を受けながらも、強がってるような感じで言った。
「そうだよ、ボクの熱線魔法で一撃だ! ……まあ、ちょっと危なかったけど。」
リョウは怪我をしているけど元気そうだ。……よかった。
僕のホッとした顔を見たファーが言う。
「私、リョウさんの雑誌のインタビューを読んでいたから、リョウさんの得意の魔法を憶えていたのよ。それでね、リョウさんに私のアイデアを伝えたの、蛇を引き剥がす魔法の使い方を。その後はリョウさん凄かったわ!」
あの巨大な蛇の魔物も、ポポス先生が操っていた魔物だということだった。
そうだ。ポポス先生が盗もうとしていた校長先生の研究って、いったい何だったんだ?
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