捕まえてやる!

「ステラ! ポポス先生!」


 二人に追いついた僕はリョウの言うことを信じて、ポポス先生に向けて攻撃魔法を打ち込んだ。後頭部に魔法がクリーンヒットしたポポス先生は転げて顔面から地面に突っ込む。


「ポポス! それを返しなさい!」


 ステラが剣を構えて威圧的に叫ぶ。ポポス先生は転びながらも書類を離すまいとしっかり胸に抱えている。


「ポポス先生、どうしてこんなことをしたんですか!?」


 僕はポポス先生のことをステラやファーほど疑えないでいたので、間違いであってくれという気持ちで聞いた。しかし、ポポス先生は僕とステラを交互に見た後、今まで見せたこともないような顔で怒鳴った。


「そうやって! お前ら生徒が僕を裏で呼び捨てにしているの知ってるんだぞ! そうやって! 馬鹿にしやがって! お前ら、家柄も才能も若さもあって! ヒラヒラヒラヒラと見せつけやがって! いつもいつも!」

「な、何言ってるの!?」


 まさかあのポポス先生がそんな酷いことを言うなんて。ステラがポポス先生の変貌ぶりに狼狽えていると、ポポス先生が何かの道具に魔法を込めて放り投げてきた。


「ステラ! 危ない!」

「きゃっ!」


 ポポス先生が投げた道具からは大きな猪の魔物が二頭現れた。僕はステラを庇って後方に下がる。ポポス先生の前にいる猪の魔物たちはポポス先生の命令を聞くみたいで、僕らに襲いかかってきた!


 僕は地面変動の魔法で猪の魔物の前に壁を作る。あんなのが二頭いたらステラの剣術でも危なすぎる。

 ポポス先生は、僕らが猪の魔物を前に動けないでいることを確認すると、再び僕らに背を向けて逃げようとした。


「ちょっと待ってくれるかな、ポポス先生。それは私にとって大事なものなのでね。」

「校長……!」


 いつの間にか現れた校長先生がポポス先生の前に立ちふさがっていた。


「ポポス先生。私は、君が生徒たちを邪な目で見ていることを知っていた。影に隠れて私をババアと呼んでいることも。それでも君は今まで最後の一線を越えなかった。だから私は教師としての君を信じていたんだよ……。ギリギリで踏みとどまってくれていると思っていたんだよ。」

「し、知ってたなら、もっと早く首にするべきだったな!」


 ポポス先生は校長先生を前にしてもまだ酷い態度を取っていたが、その表情からは余裕が無くなっていた。校長先生とポポス先生は対峙したまま動かない。校長先生はあくまでポポス先生に自首する時間を与えようというのだろう。


 その間に僕は目の前の猪の魔物をどう倒すか考えていた。一頭ずつにすればステラなら倒すことができるはずだ。僕が今持っている二本の杖に入っている魔法は大会用だから致命傷を与えることはできない。魔法陣を作る時間があればまた違うが、僕は今はステラのサポートに徹する方がいい。


「ステラ。僕が魔物を一頭引き付けるからその間にもう一頭の方を倒して。」

「ふふ。簡単に言ってくれるじゃない、アスラ。」

「できるよね?」

「私を誰だと思ってるの?」


 僕は自動防御魔法を発動し、攻撃魔法で魔物の一頭を狙う。攻撃を受けた方の魔物が僕の方に向かってくる。よし! 狙い通り! 僕は地面変動の魔法で魔物を囲った! 魔物が何度も壁にぶつかって突破しようと足掻くがそんな簡単には壊せないだろう。十秒しか持たないけれどそれで充分なはずだ。

 もう一頭の方の魔物の動きを読んでしっかりと合わせたステラが魔物の眉間を正確に剣で打ち抜く。

 ズシンと倒れた末、動かなくなった魔物は黒い霧のようになって消えた。魔物は死ぬと霧になって死体は残らない。ステラは僕が足止めしていた魔物の方も地面変動が終わったタイミングの不意を突いて一気に仕留めた。


「こっちは終わったね。」


 校長先生の方を見ると、校長先生がポポス先生を、あの時の針使いの男にやったみたいに魔法で縛り上げていた。これで終わりか? いや、そうだ……。あの時の針使い……。あの蛇の魔物がいたということは、ポポス先生とあの時の針使いは結託していたということだ。ここには来ていないのか? そんなはずはないのでは?


「校長先生!!」


 僕は校長先生に注意を伝えようとした。しかしその瞬間、僕は一瞬で暗闇に飲まれた。これはあの時と同じだ。校長先生の部屋の前で飛ばされた時と同じ……。


「アスラくん! ステラくん!」


 校長先生の声がプツリと途切れたように音が切り変わり、ザザザという風の音と共に僕は森の中にいた。

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