第九話 妨害
ドラゴンの魔女、やりすぎ
「アスラ! やったわ!」
相手チームのゴール内で立ち上がったままの僕にファーが走り寄ってきて抱きついた。
「ファー、やったね! 優勝だ!」
「アスラが頑張ったからよ!」
「いやファーのおかげだよ。」
嬉しい。この喜びをファーと分かち合えたこと。今までの練習が報われたことが僕はとても嬉しかった。
僕とファーが観客席に向かって手を振った。みんな僕らの方を見て拍手をしてくれている。ステラたちも喜んでくれているのが見える。この後は校長先生から表彰があって、優勝パーティの準備もあるはずだ。ステラたちと会える時間があるだろうか?
ドーン!!
僕が優勝の余韻に浸ってこの後のことをあれこれ考えていた時、急に大きな音がして衝撃と共に建物が揺れた。
観客席の向こう、会場の西側の窓から紫色のドラゴンの後頭部が見えた。さっきの衝撃音はこのドラゴンが競技場の壁にぶつかった音だった。僕はすぐにそれがドラゴンの魔女リョウがドラゴンに変身した姿だとわかった。小さい頃から何度も見ている。見間違うはずはない。魔法大会にも姿を現すだろうとは思っていたが、あいつ、何やってんだ!
今まで魔法大会を見ていた観客たちが窓の外を身を乗り出すように見ている。と思ったら悲鳴と共にみんないっせいに振り返り、窓から離れて逃げようと押し合いのようになった。完全にパニックである。
再び、ドーンという大きな音と共に振動が地面を伝わってきた。リョウが地面に向けて思い切り倒れたのだ。
「リョウ!」
僕は逃げ惑う観客たちとは逆の方向に向かい、リョウの姿を確認しようとした。
「アスラ! どこに行くつもり!?」
ファーが心配そうな顔で僕を呼び止める。
「ファーは避難していて! あれはリョウだ。僕は何が起きているのか確かめてくる。」
「危険だわ!」
「わかってるけど、リョウがピンチなら僕は助けにいかなきゃ!」
リョウのことは苦手だけど嫌いなわけじゃない。小さい頃から知っている顔だ。助けないわけにはいかない。
「それなら、私も一緒に行くわ。」
ファーは先ほどの決勝戦で使った相手チームの杖を取り出した。そうだ、これで空を飛べばこちらに逃げてくる観客の波に邪魔されずにリョウのところまで行ける。
その時、ステラの声がした。ステラは観客たちをかき分け、僕のところまで駆け寄ってきたのだ。
「アスラ! リョウのところに行くの!? 私も連れて行って!」
「わかったよ、ステラ! みんなで行こう!」
僕とファーは杖に魔法を込めて空に浮かび上がった。ステラをぶらさげるような形でリョウの元まで飛ぶ。
「ところでレオたちは!?」
「先生たちの指示でみんな避難誘導にあたってる。」
会場の二階の窓から外に出ると、地面に倒れた巨大なドラゴンがこれまた巨大な蛇に巻き付かれて苦しんでいるところだった。あの蛇はあの時僕らを殺そうとした針使いを連れ去った蛇だ! リョウは蛇から逃れようと土魔法や風魔法を滅茶苦茶に使いまくっている。
「リョウ!」
「アスラ、ステラ! 危ないからこっちにくるな!」
「どうして蛇と!」
「あいつが校長の研究を盗もうとしたんだ! ボクに見つかって、この蛇をけしかけてきた! こいつはボクがなんとかするからあいつを追え!!」
なんとかって、いくら力の強いドラゴンといえど蛇に締め付けられて身動きが取れない状態で全然大丈夫じゃ無さそうな雰囲気なんだけど……。
「あいつって!?」
「あの眼鏡の男だ! そこにいる!」
リョウの目線の先にいたのは……ポポス先生だった。
「は? 何言ってるんだリョウ!」
しかし、リョウに睨まれたポポス先生はなぜかその場から逃げようと走り出していってしまった。手には確かに何かの書類を抱えていたようだったが、まさか?
「ポポス! 逃がさない!」
ステラが急に叫んで二階の高さから飛び降りポポス先生を追っていた!
「え!? ステラ!?」
僕が状況を掴めずにいるとファーが言った。
「ポポスは怪しいと女子の間で噂だったのよ。イヤラシイ目で女子の体を見てくるし、あの夏休みの時だってしゃがんでいるメイノのスカートの中を凝視してたのよ?」
「えぇ……、そうだったのか……。」
「リョウさんのことは私にまかせて、アスラもポポスを追って!」
「ファー、大丈夫なの?」
「大丈夫、私に考えがあるの。」
「わかった。まかせたよ、ファー。リョウを頼む!」
僕は空を飛ぶ魔法でステラとポポス先生の後を追った。後方で攻撃魔法が炸裂する音がする。と、振り返るとそのすぐ後に火柱が上がった。あれはリョウが魔法で吐き出したドラゴンの炎だ。……大丈夫、二人なら。リョウは絶対にファーに怪我をさせるようなことはしない。
僕は全力でステラたちを追い、そして追いついた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます