勝利をファーに捧げたい
いよいよ決勝戦になった。相手のチームは三年生で、魔法の精度もレベルも高くバランスの良いチームだった。
「決勝のチームはおそらく魔法を買ってるわ。私たちが言うのも何だけど、学生の作る魔法のレベルを超えているもの。まだ全部の魔法を見ていないし、きっと今まで通りにはいかない。」
「そうだね。でも絶対に勝とう、ファー!」
「当たり前よ!」
決勝戦、僕らは今まで通りに自動防御魔法を使う。と、ファーが身体強化魔法を使う前に網魔法で反応した。相手チームがボールをゴールに向けて打ってきたのだ。
「アスラ、気を抜かないで!」
「う、うん!」
やっぱり、今までの相手とは違う。
網魔法で捕まえたボールを手に、ファーが身体強化魔法をかけ終えて敵陣に攻め込んだ。連射追尾魔法でファーを援護するが、相手チームはみんな自分の防御魔法で防御しているようだ。なかなか崩せない。お互いに得点が無いまま時間だけが経過していく。
「あ!」
試合時間は残り二分くらいだろうか。ファーが体勢を崩されてボールが手から離れた。目ざとくボールを拾った相手の選手が僕の守るゴールの方に引き返してくる。ファーが後ろから攻撃魔法で追撃するが、他の選手が盾になり守る。僕はギリギリまで魔法の発動のタイミングを待った。
今だ! 相手がボールを打った! 僕はラケットで打ち返す体勢に入った! 僕がファーの方に向けてボールを打ち返す。と思ったらボールがなぜか五個に増えた。
「どうなってんのこれ。五個とも有効なボールになってるのか?」
僕が打ち返した五個のボールはファーの方に飛んでいったが、ファーが受け取れたのは一個だけだった。相手のチームの選手が残りのボールを拾ってしまって同時にゴールに投げ入れてきた。僕は一個は防げたが残りの三個を逃してしまった。
三ポイント! 僕らはいっきに三ポイント取られてしまった! 場内の中央に三つのボールが出現する! 審判魔法的に増やされたボール全部が有効なんだ! こんな抜け道があるなんて!
僕は焦った! ゴールを割られたのは僕のミスだ。こうなったら相手を全員攻撃魔法で倒して逆転勝ちするか? いや相手の防御魔法は本格的な魔法でそれは難しい。こっちも増えたボールを利用して一気に点数を稼ぐしかない!
僕は奥の手の地形変化魔法で滑り台のような坂を作って、増えたボールを一気に相手ゴールに流し込もうと思った。
「アスラ! 焦らないで!」
しかし、転がるボールには勢いがなくゴールまで届かない。
ファーが僕のところまで戻ってくる。手にはさっきパスしたボールを持っている。
「こうなったら、一か八か。私たちもボールを増やしましょう。」
「え? でもそんな魔法は入れてないよ。」
「相手の杖を奪うの。ルールでは杖に入れておける魔法の数は制限があるけれど、相手の杖を使ってはいけないとは言われてない。」
「でも、時間が……。」
「やるのよ。やらなければどっちにしろ負けだわ。」
「わかった。」
ファーが攻撃魔法の連射で相手チームをゴールに寄せ付けないようにしている間、僕がまた地形変化魔法を使って相手の選手たちの足元を揺らす。震度六くらいの揺れにはなっているだろうか。何人か空を飛ぶ魔法で逃れたようだが、タイミング悪くバランスを崩している選手もいる。ファーが網魔法で一番近くにいた相手の選手の杖を引っかける。まさか杖が狙われていると思っていなかっただろう相手は不意を突かれて杖を離してしまった。
ファーが奪った杖で持っていたボールを増やす。
「よし、これで相手の手元には四個、こっちには五個ね。一気にゴールを狙いましょう!」
「時間がない!」
僕は地形変化魔法でゴールを塞いでおき、ファーと一緒にボールを抱えて相手の陣地のゴールまで走ろうと考えたが、今度は僕らを止めようと相手の選手は攻撃魔法を撃ってくる。自動防御魔法に守られた僕らにはかすりもしないが、三秒以上ボールを持っていられないルールだ。この猛攻の中、相手チームのゴールまで辿り着けるか!?
その時、僕は気付いた。相手チームが空を飛んでいたことに。案の定、奪った相手チームの杖には空を飛ぶ魔法が入っていた。
「ファー! 僕ごとボールを打ってくれ!」
「わかったわ!」
僕はボールを抱えてファーの投射魔法を受けた! 僕の体は回転しながら相手のゴールに向かって飛ぶ!
「うおおお!」
僕はそのままゴールに飛び込んだ! 僕の手元のボールが消えた! 審判魔法がゴールと判定してボールを中央に飛ばしたのだ。よし、これで五点だ!
僕が自陣のゴールを塞いでいる地形変化魔法が切れる前に戻ろうと立ちあがった時、笛が鳴った。時間切れ。試合終了の合図だ。
五対三! 僕らの逆転勝利だ! やったよ、ファー!
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