【Kippis!!】 Syödäänkö tämä MIKADO molemmista päistä?
「皆さんお揃いっすかー? 父から差し入れ届いたんでどうぞー」
11月11日、その日の任務を終えた第8中隊の面々が引き継ぎや待機にと集まる待機室。そこに、大きな包みを抱えたエリク・シュペーア・ハートマン少尉がにこにこと入室してきた。
「ハートマン、先に敬礼を……」
「えーっ、だってほら、俺どう見たって今両手塞がってますし? 緊急事態の張り詰めた空気じゃないんだし、そこは見逃してくれません?」
小さな声で入室の礼を指摘する直属の上官であるバルクホーンに、軽くウィンクをして返す。
いつもの明るい調子とそのやりとりに、待機室にいた隊の人間の空気も若干和らぐ。
「ハートマン少尉殿! お荷物は自分がっ!」
ささっとそこに駆け寄って荷物を受け取ろうとしているのは、同じ小隊の戦闘機パイロットでもある不破直——通称 : シュヴァルべ——。
小柄でツンツンの短髪、アグレッシヴなドッグファイトを得意とするパイロットだが、飛行部隊唯一の女性隊員でもある。漢気のある行動については隊随一と言ってもいい。
「大丈夫だよ小鳥ちゃん。あっ、そうだ! いいものあげるねー」
そう言いながらハートマンがその包みの中から一つ、少し細長い小箱を取り出して直に渡す。「はいはい、先輩方皆さまの分もあるんで! お子さんいらっしゃる方もぜひ〜」と声を張りながら、ハートマンは包みの中身を中央のテーブルに広げていく。
「
「そっ、元々は日ノ元のチョコレートスナックだって聞いたよ。見たことない?」
「これ、ポッキーですね。ねっ、兄上っ」
「ああ、そうだなぁ。日ノ元だとポッキーってお菓子だったんですけど、コッチじゃミカドって名前なんですね」
直が嬉しそうな表情で目の前に掲げた小箱には、大きなローマ字でMIKADOと書かれている。ポッキーというのは祖国でのこのお菓子の名称でもあり、菓子なんて普段あまり食べない直からすれば、懐かしいと嬉しいのダブルスコアで嬉しい事この上ない。
にこにこと箱に視線が釘付けになる直に、年相応の女性らしさを垣間見たのか、隊全員の視線が柔らかくなる。
「ねぇっ、少尉どのっ。甘いものお好きでしょう? 一緒に食べましょう!」
そのまま嬉しそうに、待機室の隅で本を読んでいた目つきの悪い上官の前にタタタッと駆けていく姿を見て、隊員の表情はさらに緩む。
「いや、貴様一人で食べろ……せっかくなんだし」
キラキラとした視線を一瞥して、そう言いながらさっさと本に視線を戻す直直属の上官……分隊長でもあるルードルマンに、紙くずとボールペン類が素晴らしく良い精度のコントロールで投げつけられはじめた。
「……何なんですか、皆して」
「女の子から誘われたらノッとくんだよ! この化石野郎!」
「お前、シュヴァルべが懐いてるからって胡座かいてると、横から掻っ攫われるぞー」
「この朴念仁!」
「少しはハートマンを見習えーっ!」
「ミカドくらい一緒に食ってやれよ! そういうとこだぞ!」
なんだか微妙に悪口が混じってないか? そう思いつつ、重力を操作して向かってきた投擲物を全て自分に当たる前に目もくれずにはたき落す。「やっぱそういうとこだぞお前」とさらなる追撃が来た。
(前にもなかったか? この展開……)
ふと視線を上げれば、にこにことした笑顔のガードナーと、少し頰を膨らませた直と順に目が合っていく。
「わかった、食えばいいんだろ……」
諦めたように言えば、待ってましたとばかりにその細長い菓子が口元にひょいと差し出された。
「はい!」
「なんだ……? 自分で食えるが」
「えっ? だって少尉どの御本を読まれているでしょう? お手間かなと思いまして……」
一つも濁りのない眼差しで、ミカドを口元に持ってくる直。
ハッとして周りを見れば、皆がニヤニヤした表情で事の成り行きを見守っているのがわかり、やんわりと断って本を置く。
「貴様ァアアア! うちの可愛い妹のあーんを断るだとっ!? 正気か? それでも男なのかっ」
一応立場上は部下だが、軍人としては先輩にあたる不破弘……直の兄にそう掴みかかられ、ルードルマンは思考を放棄したくなった。
「まぁまぁ弘さんっ、そんなん言ってー。本当に少尉殿がそのままパクッといったらそれはそれで貴方お怒りでしょー?」
「……コロス」
割って入ったハートマンの突っ込みに、瞬時にして鬼の形相になる弘。
しかしそれも、「兄上っ、チョコレートが溶けるので発熱は控えていただけますか?」と愛しい妹に言われ、瞬時に冷却された。
「相変わらず忙しい事だ」
ふぅと呆れた口調で隣にいたメイヴィスが囁くのが聞こえ、「そうだね」とバルクホーンは穏やかに返す。本当は「きゃぁああ可愛いっ」と叫びたいんだろうなとその表情を見て察し、必死に笑いを堪えた。
「そうだそうだシュヴァルべー! ミカド使って根性比べしようや」
「なぬっ、ディー曹長、根性比べとはどのようにっ」
「いちご味がオススメだぜぇ?」
「ほぉ! 味も関係あるのですかっダム軍曹!」
ニヤニヤと笑う悪戯コンビに挟まれる直。
「あれ、大丈夫か?」とバルクホーンが囁けば「奴らの考えてる事はお見通しだ、見ものだぞ?」とそっとメイヴィスが仕事モードのクールな笑顔で返して来て、やれやれとバルクホーンは肩を竦めるのであった。
***
「根性比べと聞いては、このシュヴァルべ。不破家の者として、第8中隊の一兵として負けるわけにはいきませんっ! ささっ、少尉どのっ、いざ勝負!」
「ふざけるなっっ!! どう考えてもおかしいだろ!」
いちご味のミカドを口に咥えたまま、真正面から迫り来る小さな部下を必死に避ける。立ち上がればその身長差で避けられる事は明白なのに、あまりの羞恥と驚きにそこのところは頭の中から抜け落ちているらしい。
座ったままイヤイヤと顔を逸らし続けるルードルマンに、もはや乗っかるような体勢で迫る直を見て「お前ら、やりすぎだろ……」とバルクホーンはディーとダムに呆れた視線を送る。
事の成り行きを見守る隊員は腹筋が崩壊しそうになっていて、必死に震えながら口元を押さえていた。
ポッキーゲーム。言うなればただの宴会芸だ。決して根性試しではない。
「少尉どの! ここは男を見せるのです! 我が分隊の根性を皆に!」
「だからっ! どう考えてもおかしいだろうがこれは! アホか貴様は! いい加減に気づけっ……」
そのミカドの片端が怒鳴るルードルマンの口に入りかけた、その瞬間——。
「スト———ッッップ!!!!」
ディー、ダム、ハートマンの拘束を全力で解いた弘だ。
「それ以上はお兄ちゃんが許しませんっ! なんて破廉恥なことをしているんだ直っ! それはお兄ちゃんがいただきますっ」
ぱくっ。
(エェェェェェェッェェエエ!!? この兄妹やっぱ頭おかしい!?)
ルードルマンの首をひん曲がるほどに押しのけ、いちご味のミカドの片端を口に含んだのは弘である。
「いやいやいや! 構図がやばい! いろんな意味でやばい! 止めろ!!」
何人かが叫ぶ。これ全部、うちの小隊の部下なんだよなぁ〜とバルクホーンは頭を抱えていた。
(あっ、どうしよう。勢いで奪っちゃったけど……直ちゃん? 直ちゃんそれね、食べ進めちゃダメ、ダメだよ、お兄ちゃんだよ?)
弘が真っ赤になって止まるのに反して「兄上、根性なしですかァ?」とニヤリと嗤ってみせる直。
「誰かシュヴァルべを止めろ! あいつノンアルコールだろ?」
「漢気も大概にしろ!!」
ぶつんっっ——!!!!
日ノ元のそれよりも、ミカドの長さがあって助かった。いろんな意味で。
なぜかその額に青筋を浮かべたルードルマンが、指先を使った能力でそのミカドを両断。直を空中に放り投げた。
「おっと。大丈夫ですかシュヴァルべ?」
その小さな身体はガードナーにふわりと抱きとめられる。
軽くその腕の中で敬礼し、感謝の意を表すとともにガバリと起き上がって叫ぶ直。
「ふぁんで……っ、なんで邪魔したんですか少尉どのっ! あと少しで自分の勝利でしたのに」
「ヒロシっっ! 貴様の家庭の情操教育は一体どうなっているんだ!?」
「ああもうウチの妹、優勝!」
弘の胸ぐらを掴みあげるルードルマンと、半泣きで微笑む弘……。隊の皆の視線は呆れを通り越して若干引いていた。
「そうかっ」何事かを思いついたように、ささっと二人に走り寄ってくる直。
「上官同士の美しいライバル心に水を差してしまい! このシュヴァルべ、一生の不覚! ささっ、お二人でまずは尋常に勝負をっ!!」
——はぁっ?
目が点になるルードルマンと弘。差し出されるのはいちご味のミカド。
「さああっ!!!」
「この莫迦がっ! ありえんだろうが!」
「直ちゃんっ! それならお兄ちゃんとしよう! いくらでも付き合うから! ヴォルケ少尉とはいやっ!」
「何故ですかお二人ともっ! 今こそ我が分隊の結束と根性を!」
小さなパイロットに追いかけられ、全力でダッシュして逃げる二名。
今日訓練残っていたか? と誰かが言うほどの真剣な表情で、その人影は階下のグラウンド方面へと消えていき、三人が出た後の待機室は爆笑の渦に飲まれた。
「くけけけけっ、ザァンねんっ♪ 甘酸っぱ〜いいちご味はなりませんでしたねーっ」
「ヒャハハハ、こいつぁ最高だぜ」
笑い転げるディーとダム。ちゃっかり写真も撮影済みである。
「もう、君たちは本当にっ」
事の成り行きを見守っていたユカライネン大尉も、涙を浮かべるほどに腹を抱えて笑っている。
「んじゃー大尉、広報誌に今月のおふざけピックアップで載せますんでー」
「えっ? なに? 私にもやれって言うのかい?」
「そりゃぁ、あんなん見せられちまったらねー」
もはやディーとダムはやりたい放題である。
……本人達がまずは直にお手本として実践して見せたのが、余計に彼らに誰も反対できない理由にもなっているのだが。
「おい、お前達、流石にそれは……」
「あーっ、小隊長どのっ。丁度いいや、これ咥えてくださいな」
「……は?」
有無を言わさず、メイヴィスの口に入れられたのは抹茶味。
「はぁーい、ユカライネン大尉、反対側咥えてー!」
「……!?」
「いいねーっ、イケメン揃うと広報誌も見栄えが違うっすから!」
目の前に迫ったユカライネンの顔に、思わず真っ赤になり、普段のクールな表情が崩れ去るメイヴィス。
「照れてるの? メイヴィス、珍しいね?」
……こういうノリには割と付き合ってくれる上官の無自覚さと、その何の感情も含まれていない笑顔が今は恨めしい。
その朱に染まった頬と伏し目がちの表情が若干色っぽく、隊の面々から冗談抜きで笑いが消えていく。
「はい、そこまで。もう二人ともふざけすぎだろ……」
ブンッ、という音が耳元で響く。
目の前に磁場が発生し、強制的にその距離が離された。
「君は真面目だなぁバルクホーン」
「大尉、面白がっちゃいけませんよ……」
呆れた口調でそう困った様に呟けば、ユカライネン大尉もハイハイと頷いて返す。
「ちぇーっ、バルクホーン中尉、カメラのデータまで吹っ飛ばす事ないじゃないですかぁ」
「やりすぎだって」
「……」
相変わらずにこにことした穏やかな笑顔でそういうバルクホーン。
「あっ、ちょっとこの部屋暑いよね。メイヴィス、キミ顔赤いけど外行く? 俺も行こうと思ってさ。シュヴァルべ達も捕まえなきゃね」
そう言って「じゃあちょっと外行ってきます」とにこやかに去っていくバルクホーン。
「お、おいっ」慌てたように、メイヴィスが少し遅れてその後を追う。
「さすがだなぁ、あの落ち着きよう」
「あの小隊の隊長なだけあるよな、かっこいい」
「中尉が能力使うとこ初めてみた……すげぇ」
何も知らない隊の兵達がそう呟く中——。
「こっわ、あんな怒ってるバルクホーン中尉、俺初めて見たっす……」
「なぁ、ディー? 俺ら今何したっけ?」
「触らぬナントカに祟りなし、だ。あの人からかっちゃいけねーなぁ」
バルクホーンを知る部下達は、暑いと言われた室内を氷点下のように感じていたのだった……。
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