春のお兄ちゃん離れと恋模様 最終話
楽が何って説明は、俺には今もできない。
だって楽だし。
楽だから俺の横に居て当たり前。
楽だから俺のことだけ考えてて当たり前。
だってそれが楽だろ。
ほら、空気。
当たり前なんだよ。あるのが。在るのが。居るのが。………要るのが。
理由も分からず好きって思ってたのは、後にも先にもゆず先生。
聞かれたら答えるよ。聞かれないから答えないけど。
ハツコイはいつですか?
保育園のときです。
相手は誰ですか。
先生です。
でもその記憶には必ず楽がいて。
いつでもどこでも楽が居て。
今でもいつでも楽がいる。
うちでいつも思ってるごめんねを、楽といるときは何でか思わない。
それはやっぱり、だって楽だし、なんだよ。
だから。
春とヤりたいって言った楽に、俺は別に驚きもしなかった。
普通にどうぞって、俺はベッドに転がった。
楽もいつもと同じ、いつもな感じで普通に俺に乗り上げて、俺は普通に、楽に脚を開いた。
それは、なっちゃんが、俺が中学を卒業したらここを出てゆず先生と住むって、母ちゃんと俺に宣言した日の夜だった。
ごめんね、なっちゃん。
ありがと、なっちゃん。
なっちゃんが兄ちゃんでよかった。
なっちゃんが兄ちゃんだから。
だから俺は多分、楽と。
………そんな気がする。
「やだ、春くんっ」
え。
目が点。
「やだ、楽くんっ」
続けて聞こえてきた声に、誰ってなって、何って起きた。
あ。起きたってことは、寝てたのか。俺。
え。
ここは俺の部屋。
なのにドアんとこにはゆず先生。
俺の方を見て、両手で顔を覆って、でも隙間からばっちりこっちを見てる。
顔を覆う必要性が俺にはちょっと分かんない。
「………何でゆず先生?」
「やだ春くん。今日は春くんの誕生日のお祝いをみんなでするって約束でしょ?」
「………今日ってそれ、本気だったの?ど平日なんだけど」
「え?本気だよ?当たり前じゃん。前倒しより後回しより、その方がいいでしょ」
って、呑気に話してるけど。
俺はベッドで。
楽とベッドで。
『まっぱで』ベッドだ。
「なっちゃんももう帰って来るから、部屋覗かれる前に服着といてね」
「………」
うふ。
最後に楽しそうに嬉しそうに笑って、やだもうーって言いながら、ゆず先生は俺の部屋のドアをパタンって閉めた。
楽はまだ、寝てた。
ちょっと。
何寝てんだよ。見られたんだけど。
って、まあ、いいか。
「今年はなっちゃん、何くれるんだろ」
3月からゆず先生と暮らし始めたなっちゃんが来る。今から来る。
1ヶ月ぶりぐらいだ。
寂しいとは思わない。
寂しくなんか、別に、ない。
プレゼントだよ。
何がいい?って聞かれたときに、いっぱいおねだりしといたんだよね。いつもそうなんだよね。
春うううううって情けない顔で笑うのが見たくてさ。
そんなに買ったら破産するわって言いながら、なんだかんだほぼ全部買ってきてくれて、毎年母ちゃんに呆れられるんだよ。
寝てる楽をいつものように放置して、俺はごそごそ、服を着た。なっちゃんが来るって、服を着た。
なっちゃんが家を出て、決めたことがある。
俺は、兄ちゃん離れなんか、一生してやらねぇって、ね。
そんな今日は、俺の誕生日。
『ただいまー』
なっちゃんの声に、俺は部屋を飛び出した。
おしまい
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