春のお兄ちゃん離れと恋模様 9
「何」
「………別に」
土曜日の夜になっちゃんが居なかったことに動揺を隠せないでいる今日は次の日の日曜日。
起きたらなっちゃんは普通にリビングに居て、おすって普通に、普通だった。
いつものようにタブレットで何か読んでた。何かって多分新聞。
そんなの読んで何が楽しいのか、俺には分かんないんだけど、なっちゃんは熱心に読んでる。
そして父ちゃんが居ない俺の、『日曜日のお父さん』はこれがいつからか定着したイメージ。
ただ今日は、時々身体を動かすといててって言ってて、どしたのって聞いたら、うん、ちょっとなって誤魔化された。
ゆず先生んちに泊まった次の日に身体痛いって、何したの。何してたの。なっちゃん。
朝ご飯食べて歯磨きしてダラダラしてたら、いつものようにふらっと楽が来て、なっちゃんに勉強を見てもらって、ちょっと休憩なってなっちゃんが部屋を出てった。
つまりは今楽と部屋にふたりきり。
楽。
保育園の頃からずっと一緒に居る楽。
じっと見てたら、何って言われた。
楽のくせに何って何だよ。
楽のくせに。だって、楽だろ。楽だし。
俺はよく楽のことそう言うけど、別にばかにしてるんじゃない。
それしかないっていうのがイチバン近い表現。楽には。
だって楽だし。
気づいたときにはそこに居て、隣に居て、目の前に居て、今でもずっとそこに居て、そこに居るのがもう普通。
恥ずかしくて忘れたい家出事件のときも、楽は楽のくせにずっと一緒に居てくれた。
楽のくせに居てくれて。
でも居てくれたのは、だって楽だし。
居るだけ。
ずっと、居るだけ。
別に特に何か話すんでもない。出かけたりもしない。居るだけ。
ってかもう空気。
楽は空気。俺の空気。俺は空気。楽の空気。
あれ。
「何」
「………空気って、ないとどうなるんだっけ」
「死ぬんじゃね」
「それって酸素じゃね?」
むうって、楽の口がとがった。
とがった、から。
「………なに」
「別に」
何となく。
自分でもびっくりしてる。した。自分からしといて。
そして何にびっくりしたのかもよく分かんない。
自分の行動?感触?相手?
ちょんって、俺は。
昔からよく見る楽のとがった口に、自分の口をくっつけたんだ。
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