春のお兄ちゃん離れと恋模様 1

始まりがいつだったか、なんてことは、正直覚えてない。



だって楽は、気づいた時から居るから。俺の記憶に。






いつだったか。いつだったんだろうね。



分かんないけど。






ベッド。



ヘッドボードの上に置いてある、季節外れのデカい松ぼっくりクリスマスツリー。



楽が去年くれたやつ。






見て。思い出すよね。



俺が初めて………うん、多分初めて楽のためにって頑張った日のこと。






あれ?頑張ったのはなっちゃんか。






って、どっちでもいいか。






俺の隣ですーすー寝てる楽に俺はくっついて、俺も寝ようって目を閉じた。











今日もなかった。






せっかくなっちゃんが、このこうえんの この木が そうだよって しらべてくれたのに。



『学どう』のかえりに 毎日とおまわりして よってくれてるのに。



かいちゅうでんとうを もってきてくれてるのに。






こうえん。くらくてちょっとこわいこうえん。






今日もおちてなかったんだ。おっきいおっきいまつぼっくり。






小学校1年生になって おれは毎日学校がおわってから学どうに来てた。




学校からかえっても 母ちゃんは『おしごと』をしてる。



なっちゃんは大学。



ちかくにすんでる子はみんなほいくえんの子で みんなその学どうに行くって言ってたから。



うちでつまんないより 学どうでたのしいほうがいい。






母ちゃんは 行かなくてもいいよって言ったけど にいちゃんのなっちゃんとそうだんして おれは学どうに行くことにした。






そのかえり道。



さがしてるのに見つけられないまつぼっくり。






なっちゃんも、学どうのおむかえのときだけじゃなくて 大学の行きかえりにも 見てくれてるのに。



今日もおちてなくて、なんでないんだようって、かなしくなった。






おっきいまつぼっくり。






きょねんもその前もその前も、楽がくれたんだ。



おっきいおっきいまつぼっくりの、クリスマスツリー。






『やる』






いちばんさいしょは 年少のとき。



ほいくえんのかえり道に おれにくれたのは、そのおっきいおっきいまつぼっくりのクリスマスツリーで、白くぬってあって、キラキラしたビーズがくっついてて、おれが作ったんだぞって言った楽を、そのときだけはすごいっておもったんだ。






いつもは 虫や どろだんごや 木のえだやはっぱをくれるから なんでおれにばっかりに へんなことするんだよっておもうんだけど。おもってたんだけど。



楽がつくった まつぼっくりのクリスマスツリーは、すてずにちゃんと とってある。






ことしも くれるのかなっておもってた。



だって 年少だけじゃなくて その後も その後もくれたから。



だから、きょねんのとその前のと、その前のと、ことしもくれるなら、それもいっしょにおれのへやにかざるんだっておもってた。4つかざるんだって。






なのに。






『春』






この前の 月よう日。



楽が言った。






もう クリスマスツリーは作れない。






びっくりして なんで?ってきいたら、木が なくなったんだって。



ことしも春にあげようとおもってたのに、こないだいったら 木がなかったんだって。



だからことしは あげられない。もう 作れない。






楽の口がとがってて。



おれはなんか。






なんかだった。

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