最終話

 俺と柚紀の新居は、うちから徒歩10分のとこ。

 

 

 ふたりでせっせと貯金して、マンション買うか戸建を買うかってことも考えたんだけど、俺たちの関係や、仕事柄転勤もあるしなあってことで、まずは、とりあえずは、で、賃貸のマンションに落ち着いた。

 

 

 かわりにってわけじゃないけど、車は新車を買って、家具も新調した。

 

 

 

 

 

 あと、指輪な。

 




 

 指輪はもう絶対。

 

  

 だって、やるから。

 

 

 俺と柚紀で。

 

 

 俺と柚紀の、そう………結婚式、を。

 

 

 

 

 

 そのための指輪をふたりで買って、約束してた。

 

 

 結婚式はまだ少し先だけど、指輪は記念に、今日からつけようって。

 

 

 

 

 

 事情が事情。

 

 

 結婚式はやれるところを見つけた。

 

 

 でも、俺と柚紀は同性で、残念なことにまだ法律的には認められてない。

 

 

 聞かれたら答えるけど、自分から公にはしない。

 

 

 

 

 

 無駄なカミングアウトは我が身を滅ぼす。

 

 

 

 

 

 それは9年前と変わらない事実。

 

 

 で、我が身を滅ぼさない程度に家族以外の誰を呼ぶか?って話を柚紀としてるとこ。

 

 

 呼ぶ候補としては、何年か前から春とめでたく付き合い始めたっぽい楽と、どうしてもキャラが濃すぎて忘れられないけいこちゃん、柚紀が4月からまた一緒に働き始めるこう先生。

 

 

 

 

 

 こう先生、な。

 

 

 

 

 

 思い出して、掻く。頭。後頭部。

 

 

 

 

 

 超絶イケメンだった、保育士が絶対的に似合わない保育士。柚紀の先輩で、柚紀の………。

 

 

 

 

 

 きっとまだまだ相当なイケメンなんだろうな、逆にイケメン度アップしてんじゃね?こう先生なら。

 

 

 ってかあの人年いくつだ?

 

 

 さすがにもう柚紀のことは、柚紀への想いはないだろうと思う。思いたい。あったらこわいわ。ないない。

 

 

 っていうか、再燃だってさせねぇっての。

 

 

 

 

 

 メラってまた、変なライバル心。嫉妬。

 

 

 

 

 

 だってまじでイケメンだったから。大人で超カッコよかったから。

 

 

 でもな。俺だって成長したんだよ。

 

 

 俺はもうあの頃みたいに、守られるだけの無力なガキじゃない。

 

 

 俺はもう大人で、ちゃんと夢を叶えて、なったんだ。

 

 




 今じゃ小学校の先生、なんだよ。

 

 

 だから負けねぇぞ。

 

 

 

 

 

 って、んなこと言われたってこう先生も困るか。

 

 

 

 

 

 バリバリってまた、頭を掻いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暑いぐらいの春の陽気の中。歩いてマンションについて、エレベーターに乗った。

 

 

 柚紀が先に引っ越してから、何回も通ってるけど、今日からここが我が家になるんだな。なんて、しみじみ。

 

 

 

 

 

 エレベーターを降りて、廊下を歩く。

 

 

 3つ目が我が家。今日から我が家。俺の家

 

 

 その証拠に、並ぶ表札は『加賀屋』と『堀田』。

 

 




 鍵を開けて、入る。

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

 

 

 

 

 今まではゆずきーとか、来たぞーとか、おーいとか。

 

 

 今日からは。

 

 

 

 

 

 ぱたぱたぱたぱたっ。

 

 

 小走りの音。そして。

 

 

 

 

 

「やだ、なっちゃんっ‼︎」

「ん?」

「ただいまって、今ただいまって‼︎」

「ただいま、だろ。今日からここが俺んち」

「やだもうなっちゃんっ」

「のわっ」

 

 

 

 

 

 がばっ。がしっ。

 

 

 

 

 

 抱きつかれて。

 

 

 

 

 

 ごんっ。

 

 

 

 

 

 勢い余って俺は、バタンって閉まった玄関のドアに後頭部をぶつけた。

 

 

 

 

 

「いてぇわ」

「ごっ………ごめんね。嬉しくてつい」

 

 

 

 

 

 大丈夫?って、柚紀が身体を離そうとするから。

 

 

 抱き締めた。ぎゅって。

 

 

 で、もう一回。

 

 

 

 

 

「ただいま」

「………うん。おかえり」

 

 

 

 

 

 ふふふ。

 

 

 

 

 

 優しく柔らかな笑い声。

 

 

 そして、一緒に住み始めたら絶対しよって言ってた、ただいま、で、おかえり、の、キス。

 

 

 

 

 

 嬉しくて、何回も、した。

 

 

 

 

 

「よし‼︎じゃあ指輪でえっちだ、なっちゃんっ」

「………は?」

 

 

 

 

 

 テンション上げ上げ柚紀が、俺の肩をがしってつかんで身体をべりって剥がした。

 

 

 で、行こ行こって手を引っ張るから、ちょっと待てって急いで、慌てて、靴を脱ぐ。

 

 

 

 

 

 ってかおい。指輪は分かるけど、えっちって何だ。えっちって。

 

 

 片付けはどうなった。片付けは‼︎

 

 

 

 

 

「指輪っ。えっちっ。指輪っ。えっちっ」

「だからさ、片付けが先じゃね?まず片付けじゃね?」

 

 

 

 

 

 俺の服とかカバンとか。

 

 

 持ってきたものを、運んでもらったものたちを、引越し屋に頼むほどではなかったけど、自分たちでやるよりも便利屋に頼もうって思ったぐらい結構あるんだから、片付けないとだな、俺の部屋ってのが一応あってだな。

 

 

 

 

 

「やだ、なっちゃんっ」

 

 

 

 

 

 スキップの勢いで俺を引っ張って前を行ってた柚紀が、ぐるんって振り向いた。

 

 

 しかも超真顔。

 

 

 

 

 

 ウケる。思わず笑う。

 

 

 今日も得意の『やだ、なっちゃん』が炸裂しまくりだなって。

 

 

 

 

 

「片付けより、えっちが先に決まってるじゃんっ」

「え、そうなの?」

「だってなっちゃん。片付けって美味しい?」

「………それ、なんか聞いたことある台詞だな」

 

 

 

 

 

 ふふふ。

 

 

 

 

 

 柚紀が笑って。

 

 

 つられて俺も笑った。

 

 

 

 

 

 ま、明日もあるからいいか。

 

 

 

 

 

 そして俺たちは、ダブルベッドが置いてあるで、指輪を交換して。やだなっちゃんを、聞いて。

 

 

になった部屋で、を、を。

 

 

 キスと言葉と身体で。

 

 

 

 

 

 誓い合った。

 


 

 

 

 本編:おしまい

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