134
今日も得意の『やだ、なっちゃん』が炸裂。
今の『やだ、なっちゃん』は、嬉しいの『やだ、なっちゃん』だ。
声と表情からそう勝手に受け取る。
「人生って本当、捨てたもんじゃないんだね」
「なに、それ」
その年でもう人生語るのかよって、笑う。
語るよって、柚紀も笑って。
「僕にそんなことを言ってくれるこんなかわいいコイビトができるんなら………」
「ん?」
黙る。
「………いかがわしいとこなんて、通わなければ良かった」
声のトーンが変わって、一段落ちて、それで、分かる。
色濃い、後悔。
いっそ、見えるぐらいの。
『いかがわしいとこ』。
それは、恋愛感情抜きで男が男を求めて、漁る場所。
そこで、柚紀は覚えてないけど、柚紀はこう先生と………。
やっぱりそれについては、思うことがあるけど。
少しだけ離れて、柚紀から。ほっぺたを両側から手で挟む。
そしてそっと。
ものすごいそっと、そっと、俺は柚紀にキスをした。
「通ったからだよ」
「………え?」
「ちゃんと絶望して、失望して、通って、それでも仕方ないって落ち込んで諦めてある意味受け入れたから、俺らこうしてるって、俺は思う」
うだうだ考えるのって、抵抗。拒否。
本当は全部、そんな自分を受け入れるしかないのに。最初から。
「やだ、なっちゃん」
「だからさ、やだなっちゃんで会話はできねぇって言ってるだろ」
「………うん。それでも。それでも、だよ。やだなっちゃん、だよ」
何を思うのか、何かを思い出してるのか。
また柚紀は俺にしがみついて、しばらくじっとしてた。
………のに、だ。
なのにだ、よ。
「………ちょっ」
ちょっと待て。待ってって言葉は、柚紀からの濃厚なキスによって阻まれる。阻まれてる。
喋れねぇってこれじゃあ‼︎
いつ何で何が起こってそうなってるのか。
コロコロ変わる柚紀に、俺は今日もついていけず翻弄される。なうで翻弄されてる。
頭がっちりホールドで、がっつりなキス。
ここはまだ玄関。
俺はまだ靴も履いたままだし、リュックも背負ったまま。
「なっちゃん、えっちしよ?早くしよ?今すぐしよ?時間あんまりないよね?日付け変わるまでだよね?シンデレラだもんね、なっちゃんは。もう、やだなっちゃんだよ。のんびりしてる場合じゃないよ。僕お風呂入って準備万端だからここでこのままでもいいよ?しよ?今日はいいよね?熱じゃないのに来てくれたんだし、特別にいいよね?ね?っていうか、なっちゃんがしてくれないなら僕がする。もうしたすぎて痛い」
さわさわさわさわ。
さわさわさわさわさわさわ。
柚紀の手が俺の身体を、上着の上から動き始める。
これな。
この差。さっきまでとの差。違い。スイッチオン。静から動。ぎゅいーんって。
ちょっと落ち着けって思うのに、言いたいのに、柚紀の舌が俺の口ん中で何も喋れない。
まるで聞きたくないって言ってるみたいに。
ばかだな。聞けよ。
んんんって言いながら、頭を振って柚紀のキスを振り落とす。喋らせろって。
なのに馬鹿力。力加減馬鹿男。降り落とせなくて、更にキスが深くなる。
だから違うって。拒否ってねぇって、拒否じゃねぇって。逆だから。
んなとこでしねぇよ。イヤだよ。アンタとするなら俺は。
「………っ‼︎」
喋らせてもらえないままに、ベルトに手がかかるから。
俺は柚紀の頭をホールドして、今度は俺から渾身の濃厚キスを、した。
柚紀に比べたら全然下手だけど、下手なりに真剣に全力で。
されるがままになってだけに、柚紀がびっくりして、怯んだ。
そのまま、ちゃんとその気だって分からせるために、続ける。キス。深く深く深く。
下半身も密着で。
これなら俺もしたすぎて痛いって分かるだろ。
離れようとすると抱き寄せられ、離れようとすると抱き寄せられて、濃厚キスが止まらない。
早くベッド行きたい。
好きで大事って思うから、ここではイヤだ。
いつか将来的にノリでこういうとこでってなるのことが、もしかしたらあるかも、だけど、まだ俺は、そこまでできるほどちゃんと伝えきれてない。気持ちを。
だからベッド。
「やだ、なっちゃん」
やっと離れた唇。
でもちょっとだけ唇を触れさせたまま言ったら、得意のやだなっちゃん。
「幸せすぎて死んじゃう」
「あ、ちなみにさ」
「ん?」
「………朝までいるから」
「え?」
「今日は外泊許可出てる」
「やだなっちゃん‼︎」
むぎゅううううう。
やだなっちゃんだようううううって、イミフな柚紀にぎゅうぎゅう絞められて、ぎぶぎぶって柚紀の背中を叩いた。
でもゆるめてくれなくて、こら馬鹿力って、俺も仕返しでぎゅうぎゅうして、笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます