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1泊分の着替えをリュックに詰めて、途中コンビニに寄った。
時々柚紀と食べるロールケーキでもいいんだけど、今日はもうちょい奮発の新発売スフレにするかな。
俺はさっきハンバーグの後にデザートを食べたから、柚紀の分だけ。
あ、そういえば明日俺の分の朝飯あんのか?
気になって、柚紀にラインしようと思ったけど、スマホをポケットから出して持って、でもそのまままたポケットに突っ込んだ。
泊まるってことは、実はまだ言ってない。
柚紀なら絶対、100パーセントいいよって言うと思って。いいよどころか泊まるって言ったら今日は寝かせてもらえないんじゃね?の、域。
何気に柚紀は顔に似合わず肉食だと思う。ナニに関しては。
なら。
このまま部屋行ってからのサプライズ的発表のがいいじゃん。
「………しかし高いな」
朝飯になりそうなものを探しつつ、主婦な俺は、思わず本音が。
でもスーパーはもう閉まってるし、他でもない柚紀との朝飯のためだし。
何にするかな。
パンコーナーの前で悩む。
柚紀はちょいちょい自炊をする。
じゃあタマゴとウインナーぐらいあるか?
………分かんねぇ。
いいか。なかったらなかった時だ。これ全部柚紀にやって、俺は家で食べればいい。
しばらく悩んだロールパンを一袋手に取って、スフレと一緒にレジに持ってった。
「なっちゃんっ」
「のわっ」
ピンポンって鳴らして、インターホン越しの『はい』を待ってたら、玄関がガチャって開いて柚紀がぼふって俺に飛び込んで来た。
すんごいびっくりしたけど、おいおい外から見えるって焦って、首に腕を絡みつけてくっついてる柚紀を抱えて何とか玄関の内側に入った。
なっちゃん。
しがみついて、離れない。
だから俺も、そのまま柚紀を抱き締めた。
「1年間、お疲れ」
「………うん」
「頑張ったな」
「………うん」
「柚紀に言うのも変だけど、卒園おめでと」
「………うん」
柚紀はしばらく俺にしがみついて、動かなかった。
「ありがと、なっちゃん。来てくれて」
ちょっと泣いてた柚紀が、ぐすって鼻を鳴らして顔を上げた。
照れ笑いが異様にかわいい。
「今日は絶対来ようと思ってたから」
「………やだ、なっちゃん」
「ん?」
「すごい嬉しい」
「………うん」
おでことおでこを合わせて、超至近距離で目も合わせる。そして笑う。
そのまま顎を上げた柚紀の唇が、そのまま俺の唇に重なる。
毎週土曜日にキスはしてたけど、辺りを見渡してちょっとするだけだったから、気兼ねなくできるのが久しぶりで、それがどきどきで、嬉しい。
「ねぇ、なっちゃん」
「ん?」
「春くんの将来の夢、聞いた?」
「………聞いた」
「あれって、なっちゃんと僕のってことで………いいのかな」
唇を離して、でも、顎をほんの少しでも上げたら触れられる位置で、柚紀がちょっと不安そうに言った。
だから今度は俺が顎を上げて、唇を触れさせて、そうだよって、答えた。
だって、実際そうだろ。
あんだけまっすぐ柚紀を見て『お兄ちゃんの結婚式』って言ったんだ。
それ以外ありえない。
「できるのかな。結婚式なんて」
「できる」
「………なっちゃん」
呟くみたいに言った柚紀に、現実にどうなのか知らないまま間髪入れずできるって俺は言った。
本当にやってくれるところがあるのかとか、知らない。分かんない。
ただ、春がそう言ってるならやりたいし、けいこちゃんがそう言ってるなら、できるんじゃね?って。
だって『けいこちゃんだし』、な。
「………もしかしたら、結婚式だけじゃなくて、結婚もできるようになるかもだぞ」
「………え?」
「そんなときが、いつか来るかも、じゃん。んで、いつか、そんないつか来たらさ。そんときは………」
しよ。
んなこと言っちゃって、いいのか?って、思わなくもない。
俺はまだ18で、柚紀は23だ。
さらに言えば俺らは、俺らが初めてのコイビト。
普通なら、別れる可能性の方が大。
なのに結婚って。何言っちゃってんだって。重いわ。いや逆?軽いわ。か。
でもなあ。
でも、なんだよ。
俺はすごい、まじでそう思ってる。しよ。できるようになったらしよ。って。本気で。
それぐらい俺は。柚紀が。柚紀のことが。
「………やだ、なっちゃん」
柚紀がまた言って、またぐすって、鼻を鳴らした。
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