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無事どーてーくんを卒業した後………つまり、コトが終わってからも、ベッドでまっぱのまま柚紀とくっついてた。
何かしゃべるわけでもなく、お互いの身体に腕を絡めて、キス。
深いキスじゃない。唇をそっと合わせるやつを、俺がずっと柚紀にしてた。おでこや瞼、鼻先、ほっぺたにも。
柚紀はそれに、目を伏せて笑った。
変にテンションを上げることなく。穏やかに。優しい、大人キレイな笑み。
それが、変かな。嬉しくて。俺。
だってきっとこっちが本当っていうか、素っていうか。柚紀の。
もちろんテンション上がっておちゃらけたり不思議なこと言うのも柚紀なんだけどさ。
多分コノヒトは、基本穏やかで、わりと静かな人なんじゃね?って俺は思ってて。
だから、こんだけキスしまくってるのに、その柚紀で居てくれるってことは、テンションを上げて不安をごまかしたり、逃げ道作ったりしないでいてくれてるってこと。
ちょっとは俺の好きって気持ちを信じて、安心してくれたのかなって。
重ねる唇。触れる唇。
好きって思う。まじ好き。まじでまじ好き。やったから余計。特別感増して増し増しの好き。
すっげぇ何回もしつこいぐらいキスしてたら、柚紀がついにふふって笑い出した。
「なに」
聞きながら。でも、キス。
「なっちゃん、キス好き?………さっきからずっとしてる」
「ん。好き。気持ちいい。ってかアンタが好き」
答えながら、しゃべりながらも、やめない。続ける、キス。
ふふふって、更に笑って。
………ありがと、なっちゃん。
穏やかに。優しく優しく。甘く。唇の上で柚紀は言った。
「………何が?」
ありがとって、何。コイビトなら、当然の行為だろ?そんなの普通言わないだろ?
もしかしてまたコノヒト変なこと考えてる?
さっきの気持ち悪くない?と同じような発言なら、今すぐもう一回やってやる。分からせてやる。
好きなんだよ。それだけなんだ。
そう思ってキスを止めて、柚紀の言葉を待った。何を言うんだって。
「………好きって言われながら、好きって思われながら抱かれるって、すごくすごく………こんなにも幸せなんだね」
静かな声。
穏やかな声。
優しい声。
目を閉じてる柚紀に、俺は。
返事のかわりに、キスをした。
「ねぇ、なっちゃん。お腹すかない?」
初めてだったけど、初めてなりに伝わるものは伝わった。
よかった。カモネギな俺の脱・どーてーくんは無事大成功、大満足に終わった。
終わったけど、終わったから、はい終わりにできなくてキスしまくってて、今はそのキスをはい終わりにできないでいた。
だってすごい好き。やばいぐらい好き。離したくない。こうしてたい。何なら一日中だって。
もちろん不可能なのは分かってる。気持ち的にそうってこと。
実際不可能。すでに不可能。柚紀が言うようにお腹すいた。何か食べたい。飲みたい。運動しただけに身体が何か食わせろって主張が激しい。
「超減った」
「だよね。なっちゃん何気に途中でお腹鳴ってたもんね」
「え、聞こえた?」
「聞こえた」
「まじムードゼロだな。初めての最中に腹が鳴るって」
「僕ちょっと吹きそうになったよ」
「………わり」
ふふ。ふふふ。
この笑い方はさっきまでと何も変わらないのに、さっきまでと何かちょっと違う笑い方になってるような気がした。
元々眩しいぐらいの笑顔の人だけど、何だろう。
って、笑ってるそのほっぺたを両側から触って、あ、って。急に思った。
穴。塞がったんだな。きっと。
コノヒトのココロにあいてた穴が、今日で、今ので。
今までの色んな思いが全部癒えることはないかもだけど。
その穴が『全部』塞がることはないかもだけど。
大部分が。ほら。
やだもう、幸せすぎて死ぬほど死んじゃうって、ほっぺたに触ってる俺の手に手を重ねて笑う柚紀に、キスは、止まらなかった。
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