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 上を、脱がせた。

 

 

 素肌を重ねた。素肌同士を。

 

 

 

 

 

 熱い。

 

 

 

 

 

 初めての感覚が初めてで、言葉にできない。うわ、とか、ああ、とか。感嘆符。

 

 

 

 

 

 重ねて、重なって、その首筋に顔を埋めた。柚紀って。

 

 

 柚紀も何を思うのか。何かを思うのか。はあって息。そして、なっちゃんって。

 

 

 腕が背中に絡むのも、ダイレクトな熱。ぬくもりで、またなる。うわ。ああ。すごい。すげぇ。

 

 

 

 

 

 これだけで、気持ちいい。

 

 

 これだけで特別感。

 

 

 素肌を重なることが許されるって、特別、だろ。やっぱり。

 

 

 ………だから、だな。

 

 

 柚紀がいかがわしいところに通ったのは、だから。

 

 

 こうすれば簡単に得られるんだ。特別感が。恋人感っていうか。

 

 

 名前を知らなくても、一度限り一夜限りでも、好きになった相手に好きになってもらえなくても、誰でもいい誰かにこうしてもらえば、『満たされた風』に、なるよ。

 

 

 一度限りだから一夜限りだから、一度で一夜なんだけど、それでも。

 

 




 知らなければ求めることもないぬくもり。

 

 

 でも、知ってしまえば求めずにいられないぬくもり。

 

 

 これをもし、自分が好きと思う人とできたら。

 

 

 

 

 

 それは憧れで、絶望。

 

 

 

 

 

 絶対叶うわけがないと思ってた柚紀への好きって気持ちを思い出す。

 

 

 

 

 

 コノヒトは俺よりずっと長い間その気持ちを抱えてた。

 

 

 

 

 

 俺も大きく息を吐いた。

 

 

 そして呼ぶ。柚紀って。

 

 

 ん?って。

 

 

 優しく穏やかな声。

 

 

 

 

 

 コノヒトが知るこういうぬくもりが、どんだけあるのかは知らないけど、どんだけあってもいいから。

 

 

 俺が一番のぬくもりになれたらいい。

 

 

 俺が、コノヒトの一番のぬくもりに。

 

 

 

 

 

「………好きだよ」

 

 

 

 

 

 精一杯の気持ちを込めて、言って。

 

 

 精一杯の気持ちを込めて、唇を重ねる。

 

 

 

 

 

 なっちゃんって声が。

 

 

 

 

 

 なんか胸に………沁みた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………なあ」

「………んっ」

 

 

 

 

 

 どんだけでもしてられるなって、柚紀の身体にキスしまくってた。

 

 

 どんだけしてるのか分かんないけど、まだ、上半身だけ。キスして、触って。

 

 

 

 

 

 跳ねる柚紀の身体がやばい。下はまだ履いてるのにやばい。

 

 

 男でこんだけ色っぽいって反則じゃね?反則だよ。

 

 

 しかも、今のもそうだけど、声な。

 

 

 小さく漏れてる声がやばい。今のは返事?それとも。

 

 

 

 

 

 18歳舐めんなよ、の『18歳』は、一回萎れたはずなのに、それはそれはもう元気だった。

 

 

 

 

 

「アト、つけたい」

「アト?」

「キスマーク」

「え?」

「俺のものマーク」

 

 

 

 

 

 この辺にって。

 

 

 柚紀の心臓のあたりにキスをした。いい?って。

 

 

 そしたら、やだなっちゃんって、柚紀の得意ワードが聞こえたから、イヤ?って顔を上げて柚紀を見おろした。

 

 

 

 

 

「やなの?」

 

 

 

 

 

 イヤならしょうがない。つけたいけど、一回やってみたいんだけど、まあ仕事で着替えることもあるだろうし。そこで見られても、な。

 

 

 

 

 

 ………こう先生に。

 

 

 

 

 

 いや、こう先生ならいっそ見せてしまえと、思わなくも、ない。

 

 

 

 

 

 こう先生かって。

 

 

 勝手に色々思って、だからちゅってまた、心臓のあたりにキスをした。

 

 

 

 

 

 アンタのココロは俺のもので。

 

 

 俺のココロはアンタのもの。

 

 

 

 

 

「やだなっちゃんっ」

「え?そんなイヤ?」

「そうじゃなくて、やだなっちゃんっ‼︎だよ」

「だから何」

 

 

 

 

 

 コノヒトまた変なスイッチ入った?

 

 

 

 

 

 さすがに『やだなっちゃん』から何を言おうとしてるのかは分かんないぞ。

 

 

 そんなイヤならやんないし。でも俺はやってみたいから柚紀の様子見てこっそりやるし。

 

 

 

 

 

「なっちゃんがかわいすぎて死ぬ」

「へ?………ああ。って、何回目だよそれ」

「もう分かんないよ。死ぬほど死んでる」

 

 

 

 

 

 死ぬほど死んでるって何だその日本語。

 

 

 

 

 

 くすってふたりで笑って。だって………って目を伏せる柚紀に笑って、いい?って。もう一回聞いた。

 

 

 

 

 

 イヤって言われてもつけたい。記念に。

 

 

 初めての記念。俺の初めて。俺たちの初めて。の、記念。そして俺のものマーク。独占の印で証。

 

 

 

 

 

「なあ、つけたい、俺。ってかつける」

 

 

 

 

 

 言って。宣言して。また柚紀の胸元の、心臓のあたりにそっとキスをして、そして。

 

 

 

 

 

「………なっちゃんの初めては、全部僕のものだね」

「………うん。全部アンタのものだよ」

 

 

 

 

 

 手を繋ぐのも、抱き締め合うのも、キスも、それ以上も、の、前から初めてだよ。

 

 

 好きってここまで思う気持ちから、全部が。初めて。

 

 

 

 

 

 そして俺は、柚紀の肌を強く強く吸った。

 

 

 

 

 

 チュウってまぬけな音に、ふふふって柔らかな笑い声が、聞こえた。

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