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そしてやっと。やっとゆず先生は、柚紀はベッドに行った。
アイスがやばいぞって、いそいそ冷凍庫にしまう俺を見て、ベッドの、布団の中から笑ってる。
「笑いごとじゃねぇぞ。知らないのか?人生において絶対無駄にしちゃいけないのは時間とお金と食い物だ」
「えー?何それ。知らないよ?誰の名言?」
笑いながら誰のって聞くから、振り向いた。
ベッドから俺の方を見てる柚紀を。肩越しに。
そして。
「堀田夏の名言」
一言。
堀田夏ってとこで立てた親指でくいってやったら、柚紀が思いっきり吹き出して爆笑した。
そこ笑うとこじゃねぇぞーって言いつつ、今度は冷蔵庫にスポーツドリンクを入れた。
ついでに熱冷ましのシートを出す。バナナは流しの横でいいかって、置いた。
「なっちゃんお母さんみたい」
ふふって笑い声と、言ってる声の感じからして、機嫌は無事に直ったらしい。
さっきはちょっとキレ気味だったもんな。
よかったって思いつつ、熱冷ましのシートをペロンって1枚持ってベッドに行く。
「貼るからおでこ」
「うん」
横になってる柚紀が、前髪を搔き上げておでこを出す。そこに俺が、熱冷ましのシートを貼る。
つめたーいって、じたばた。
「暴れるなって。ほら、熱が早く下がりますように」
暴れる柚紀をおさえて、昨夜もやったシートの上から、おでこへのキス。
を、したら。
がしって、つかまった。
うおってびびって、けど、何って。そのまま柚紀の熱い頭の両側に肘をついて、髪の毛を撫でた。どした?って。
「早く熱が下がって無事なっちゃんに頂かれますように」
熱でゆらゆらしてる目で、見上げられる。
真面目な顔。
泣きそうにも見える真剣な顔。
それにちょっとどきってしたけど、コノヒト、まだやる気でいるのかって、思わず笑った。
「さっきの俺の話、ちゃんと聞いてたよな?」
ん?って、確認。
どうしたら伝わるんだろ。好きだよって気持ち。この、気持ち。
俺がまだ高校生のガキだから?
コノヒトの今までのせい?
信じて。
確かに俺はまだ高校生のガキだけど。
本気だよ。まじで好きだよ。自分でもびっくりしてる。違うだの無理だのうだうだしてたのって何だったんだって、思うぐらい。
髪の毛、撫でて。
俺を見上げてるゆらゆらの目元に、キスをする。
そしたらちょっと照れたのか目を伏せて、時々やる、見せる、吐息の笑いをした。
「………聞いてた。すごい嬉しかった。うんって思ったよ。なっちゃんがなんかどんどんカッコよくなってきて、頼もしくなってきて、立場逆転な感じで、どきどきもしてる」
「………へ?」
「すごいね………すごい、なっちゃん、カッコいいよ。カッコ良さが倍増してきてる。何がどうって、うまく説明できないんだけど………。こんな子が僕のこと好きって言ってくれてるんだって。すごいね、嬉しい」
その言葉に、今度は俺が照れくさくなって目をそらして、そういうなっちゃんはかわいいまんまだけどねって柚紀は笑って。俺をつかまえてた手で、俺のほっぺたをむにゅって、した。
「好きだよ」
「………うん」
「うん、なら、無理にやらなくても、今できなくても、大丈夫だろ?」
したいかしたくないかって、そんなの決まってる。したい。
やるってどんなだろって、思う。興味なんて、津々でしかないって。
けど、やりゃいいってもんじゃない。
特にアンタ、は。アンタに、は。
俺のほっぺたをむにゅってしてた手が緩んで、でも、そのまま触れてる。
何かと何かで葛藤。揺れ。ゆらゆら。
「………とりあえず、寝よ」
「………うん」
小さく頷いた柚紀に。
好きだよってありったけの気持ちを乗せて、そっとそっと、キスをした。
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